敵は完膚なきまでに叩き潰しましょう
翌日、キールを呼び出した。
「ルリさん、こんな人気のないところまで呼び出して、一体どうしたんですか…?」
若干おびえた様子のキールに、やっぱりヒロイン体質なんじゃ…とどうでもいいことを考えた。
「私のローブの中身を見ていただいておいたほうがいいかと。当日動揺されても困りますし。」
「ですが、どうしても取りたくないと今まで訓練中も外さなかったんですよね?」
「まぁ、そうなんですが…実技試験にはこのローブを被ることはできないので」
「確かに、指定の防具は皮鎧ですからね。」
「驚いたとしてもできるだけ静かにお願いしますね。」
神妙にうなずかれ、少しばかりためらいはあるものの一気にローブを脱ぎ去った。
よくよく考えれば、脱ぐ必要はなく、フード部分を外せば済んだ話だと思い当たり、気まずい。
そのうえ、キールからの反応は無。
表情も変わらず、声も上がっていない。
「キールは驚かないんですね。」
「あ、いえ、驚いてはいるのですが…噂の中には化け物級の醜女だとか、ひどい傷跡があるだとか、人外の姿をしているというものまであったので…」
「なんなんですか、その噂は」
「ルリさんが頑なにフードをとらず、見た者もいないからどんどん尾ひれがついたんでしょうね。」
「最近は外そうとする人間が減ったと思いましたが…その噂のおかげですか。」
人の想像力とは怖いものだ。
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さてさて、本日はとうとう実技試験当日である。
武器は各々得意とするものを使用可能、キールは意外にも長剣使いらしい。本当は弓や重火器の方が向いているのに、エバンズ家は代々長剣を使うものという固定観念があるらしい。確かに長男殿は体格も良く向いていたが。キールは向いてないと誰から見ても分かるだろうに、不便なことである。
そこをヒロインがどうにかするストーリーだったのだが、まだヒロインが出てこないためキールの武器は家が定めたもののまま。
私は得意な武器は特にないが、今回は短剣とバックラーにした。
指定の皮鎧はできるだけ軽く、動きを妨げないものを選んだ結果、胸当て程度の面積しかない。
ローブを外した状態で試験会場に現れた私を、周囲はざわめきを持って迎えてくれた。
消してそれらは好意的なものではない。
今までの訓練で私に突っかかってきては叩きのめされた奴らはここぞとばかりに黒否定の発言を声高に述べていた。
それ以外でも、皇子関連でぼそぼそ言っている奴らもちらほら。
「私が気に入らないのであれば、この試験で私を負かせばいいでしょう。」
ひたり、と周囲が水を打ったかのように静かになる。
「失礼。できないから、口で言うしかないんですね。」
嘲笑交じりにそう言ってやれば、周りから噴出する怒気。
騎士科にはプライドが高くて、血の気もそれなりに多い人間ばかりでありがたい限りだ。
後ろでキールが冷や汗を流して立ち尽くしていたが、そんなことは些末なことか。
私の戦法はヒットアンドアウェイ。
もともと小回りを生かした戦い方のほうが得意だし、皇子の魔法付与効果なしでは私の攻撃はどうしても軽い。
会場入りの挑発効果で、狙いは私に集中した。
思惑通りでありがたいが、そんな単純思考では今後困るだろうにというあきれも交じる。
ウェイトの関係上攻撃は軽いとはいえ、人体の弱点を突いた攻撃で結局全戦ノックアウトで優勝した。
実力主義の中で実力を示して見せたのだから、これからこのトーナメントに出たやつらは私には何も言えなくなったことだろう。
こそこそとしたものはなくなりはしないだろうが、そのまま負け犬の遠吠えとして無視してやる。
やり切った、と思っていたところで、シングル戦の優勝者も決まったらしい。
実技試験とはいえ、トーナメント。優勝者にはそれなりのご褒美がついている。
私はキールと相談のうえで、金一封とさせていただいた。私は平民だし、キールも何だかんだ男爵家の三男だ。これ以上に実用的で役に立つものはない。
さてさて、シングル優勝者の褒美は何だろうな、と傍観者気取りでトーナメント会場を覗いていると、優勝者とばっちり目が合ってしまった。
「俺の望みは、タッグ優勝をしたというそこの黒との試合だ。」
シングル戦優勝者の茶髪イケメンには見覚えがあった。
ゲームの攻略キャラの一人だ。
クレイブ・ハッセン。伯爵家の長男で、現国王軍隊長の息子。
メインヒーローで、騎士科成績トップという設定…だったが、現在は私がトップをとってしまっているので2位に落ちている。
いつもいつも、どうにもぎらついた眼で睨み付けてくため、敵視されているとは思っていたが…。
この場で言い出すとは、熱血キャラというのはこれだから面倒くさい。
「断っても構わんが、その時は逃げたものとするぞ。」
「何を言っているんですか、逃げませんよ。あなたの優勝分と合わせて、褒美2倍になるんでしょう。こちらとしても、それは魅力的ですから。」
言外に、私が勝つと告げれば面白いほどに表情が変わる。
が、そこはさすがに国王軍隊長の息子。精神面も鍛えられているらしく、一つ呼吸で切り替えたようだ。
「いいだろう、俺はすぐにでも始められるが?」
「こちらも問題ないですよ。」
不敵に笑うクレイブは、確かにメインヒーローらしくカッコよかった。