書類はしっかり読みましょう
タッグ用のエントリーを終え、ガイダンス書類に目を通していると、見過ごせない一文を見つけた。
「防具は指定のものに限る、とは」
「外部持ち込みによる魔法付与を防ぐためだな。」
行儀悪くもテーブルに突っ伏してしまった私の頭を軽くなでながら皇子がそういう。
皇子は私の年齢を知っていますよね、そんな子供をあやすようなことをされても…いえ、若干癒されますもっとお願いします。
どうせ、私が学園でつけているローブはただの布きれだし、つけていたところで私の視界が狭くなるだけで相手には不利にならないというのに。さてさて、もうこれは腹をくくるしかないのだろうか。
髪だけならばカツラを被ればどうにかごまかせるだろうが、目の色や眉、まつげはごまかしようがない。
この世界にはカラコンなんてものはないのだ。
代わりに変装術という魔法は発達している。髪色や肌の色などだけでなく、骨格を変えることだって上位魔法では可能なのだそうだ。
だがしかし、私は魔力なし逆チート体質。
変装術すらかからない。そもそも実技試験は魔法使用不可。
詰んだ。
「…仕方ありません。むしろいい機会だととらえることにしましょう。
幸い騎士科は実力主義。黒だ何だといえないほどの力の差をこちらが示せば最悪の事態は無いでしょう。」
「ルリが一体何を最悪としているのかは不明だが、ルリを侮辱するものが居ればすぐに言え。」
「皇子、例えばですが、その人は一体どうなるんでしょうか?」
「私のルリを悪く言うのだ。侮辱罪で少なくとも地位剥奪、最悪二度と日の目を見ることもないように」
「高々一般庶民の悪口言っただけでそれは重すぎます。物騒ですよ! ちょっと、若干フォークがゆがむほど力を込めないでください。」
皇子は気づかなかった、と若干歪んでしまった純銀のフォークをメイドに手渡す。
皇子だって伊達に魔獣はびこる塔で生き抜いてはいない。
ルールありきで試合すればギリギリで私が負ける。そこは男女差だ。
魔法以外なんでもありであれば私が余裕勝ちするし、魔法を使われれば余裕負けするが。
ゲームキャラでの皇子は魔法特化で物理はてんでダメだったのに…これも私が介入してしまった故のズレなんだろう。
皇子のためにも日陰で目立たず、の予定だったがうまくいかないものだ。
「キールが私を見て組むのが嫌だといった場合が困ってしまいますね…先に説明だけしておきましょうか。」
「そうだ、ルリはタッグトーナメントに出るんだったな。」
「女生徒はシングル参加不可だったので…シングルでの方がやりやすかったのですが、伝統や公平さを出されてしまったらさすがに言い返せませんでした。」
「組む相手はどんな奴なんだ?」
「キールですか? エバンズ男爵家の次男だと言っていましたよ。今日会ったばかりなので、人となりはわかりかねますが。」
「エバンズ家なら黒だからとは言わんだろう、あそこは確か使用人にも何人か黒の人間がいるという話だったからな。」
「理解がある家のようでよかったです。最悪どう丸め込もうか今20通りくらい考えていましたが。」
「ルリのほうがよほど物騒だと思うがな。」