クラスメイトと関わりましょう
入学から、1週間。
完全にボッチです。
そりゃあそうだ。
いくらなんでもこんな姿形隠しまくりな怪しい人間、声かけるのも勇気がいる。魔術師科には数人、黒の人間が私みたいな格好の人で居るとの事だが、騎士科には過去例が無いというし。
騎士科は実力主義なので、黒だったとしても姿を隠してもいない。
一部の好奇心しか無い、からかい目的の輩は私が生理的に無理で無視してしまっているし。
一度力ずくでローブを脱がそうとしてきた奴らに対魔獣で磨きがかかったケンカスキルで撃退してしまったのも原因だと思う。
ローブを被っている時点で割と黒認定をされているけれども。それとこれとは別である。
ない頭で考えてこうしているというのに、その努力を無駄にするやつらは天誅である。
教室移動中に嫌なことを思い出したせいで、ため息を吐き、階段を見上げれば雑用を言いつけられたのか細身の生徒が大量のノートを抱えて不安定に階段を上っていた。
足元が見えていないのか、不安になる足取りだ。
騎士科のわりに足腰も弱そうだし、なよっちい。
それに、あの髪色と貴族を示す制服はゲームの記憶の中で見覚えがあった。
たしか、彼も攻略対象。キールという名で、エバンズ男爵家の次男坊。
皇子とは逆に魔力量が少なすぎるせいで、騎士科に入れられたものの体格にも恵まれず、出来のいい長男と比べられ続けているかわいそうなかわいい系男子だ。実は弓や重火器などの遠距離攻撃に優れているということはストーリー上で明らかになるもので、現段階では落ちこぼれ認定されている不遇の美少年。
「…っ」
ハラハラしつつ見守っていれば、彼が階段を踏み外し、ノートをばらまきながら体が後ろに倒れていく。
ノートがバサバサとぶつかるが、気にせず倒れた体を受け止めて支えた。
細い体は見た目通り、重量はない。多少の衝撃だけで受け止め切れてしまった私は、そろそろ乙女ではないのだろう。
「大丈夫?」
「へっ、え、あ、ありがとうございます…!」
落ちる衝撃に備えてギュッとつむっていた目が恐る恐る開かれた。美少年顔も相まって、まさにヒロインである。
へたり込んだ体を座らせて、ノートを拾い集める。
半分ほど拾ったところで、我に返った彼も一緒に拾い、各々が集めた分を持って立ち上がった。
「…あの?」
「この時間に、こっちの方面に向かっているってことは同じクラスでしょう。一緒に持ちます。」
不思議そうにノートが載せられるのを待つ相手を置いて、目的の教室へ向かう。
慌てた様子でついてくる足音が聞こえ、横に肩が並ぶ。
「ありがとうございます。僕はキール=エバンズと言います」
「私はルリです。姓はありません」
「知っていますよ、皇子の側付きで、顔も見えない貴女はとても目立っていましたから」
「…」
事実であり、否定できないことではあるのだが、何だろう、困る。
「来週、実技試験がありますし、怪我しなくて助かりました。あ、よければ何かお礼をさせてください!」
さっきまでドジを踏んでいたキールの言葉に、いろんな意味で不安になる。
キールの話通り、来週には騎士科の新入生の力試しとして、トーナメント形式の実技試験がある。魔法使用不可、模造刀、防具ありでの試合だ。シングル戦と、タッグ戦があり、私はシングル戦で出るつもりだったのだが、女は男女混合のタッグ戦のみしか出られないという決まりだった。
男尊女卑であると訴えたものの、伝統でありこれまで男女の公平を目的としてきたシステムであるということで改善はされなかった。
「じゃあ、お礼に実技試験でタッグ組んでもらえますか?」
「えっ、いや、でも僕はこの通り運動神経がいい方ではなくて…足を引っ張ってしまうと思いますよ?」
「恥ずかしい話、タッグを組んでくれそうな親しい相手がいませんでして…。」
それに、1対多の戦闘は経験もあるのだから、自衛さえしてもらえればどうにでもできる、というのはキールのプライドのために腹に止める。
数日ではあるもの、授業で行っている模擬戦闘を見ても幽閉塔の魔獣より苦戦しそうな相手は少ない。
それに、実力者であればそれこそシングル戦で出るだろうし。
「わかりました、いいですよ。」
「ありがとうございます。」
キールの了承を得て、タッグ用の申し込み申請は私のほうで行うことを告げた。
何とか、実技試験の難関は乗り越えたようだ。