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2...猪少女はトラブルメーカー



「こんのっ、馬鹿たれ共が!!」


耳を貫くその怒声に、思わずアルベルトとクレアはギュッと目を瞑り身体を縮こませた。


あの後アルベルトは、折角妖精を見つけたのだからまだ帰りたくないと駄々を捏ねるクレアを半ば無理矢理引きずる様にして、森の近くにある村に帰ってきた。

危ないからと泉の女性が森の入口まで送ってくれたお陰なのか、幸い道中で獣に襲われる事も無く、別れ際にも渋るクレアを説得するのに協力してくれ、アルベルトはようやくクレアの手を引く力を弛める事が出来たのである。


だが村へ戻ってきた時、彼は思わず引き返したくなる衝動に襲われた。

何故なら家を出る時には暗かった筈の我が家から明かりが漏れているのが分かったから。


じゃじゃ馬のクレアに付き合って、その後一緒くたに怒られるのは何時もの事なので慣れてはいるが、今回のこれは拳骨では済まないかも知れない。

まだ何もされていないのに、想像しただけで何だか頭頂部に拳が降りてきた様な痛みを感じる。

思わず特大の溜め息を吐いた後、同じ様な想像をしたのか、強気が吹き飛んで涙目になっているクレアを連れ、アルベルトは先ず自分の家に向かった。


「た、ただい...ま」


簡易的な扉代わりの幕をそっと捲り、アルベルトは恐る恐る中を覗き込んだ。そして案の定、仁王立ちで待ち構える鬼の形相をした祖父を見つけ、ビクッと固まる。


「...何処に行っていた」


低い声でそう問われ、おずおずと祖父の前に2人で並ぶ。

祖父の奥にはクレアの母の姿も見えた。

このまま黙っている訳にもいかないので、正直に森へ行っていた事を伝える。

そして降ってきた雷が、先のそれだった。


「「...ごめんなさい 」」


素直に頭を下げる子供達を、アルベルトの祖父であり村のまとめ役であるダニエルは厳しい表情で見つめる。

と同時に2人に怪我等が無い事を確認し、安心した様に息を吐く。


「...全く」


今回ばかりは肝が冷えたぞ...と漏らしながら、ダニエルは2人の頭に掌を優しく乗せる。

てっきり拳骨が来ると想像していた当の本人達は一瞬戸惑った様な表情を見せたものの、その大きな掌が伝えてくる心配と安堵を感じ取り、もう一度「ごめんなさい」と呟いた。


「怪我は無いのね...?」

「...うん、大丈夫」

「あなたがやんちゃなのは何時もの事だけど...お母さんもダニエルさんも、本当に心配したのよ...」

「お母さん...ごめんなさい」


母の下に駆け寄るクレアを見て、アルベルトは微笑ましい気持ちと同時に少々の呆れ、そして反省の気持ちが混ざった複雑な感情を抱いた。


「無事に戻って来たから良かったが...日が出たら村の連中で探しに行くつもりだったんじゃぞ」


コツンと軽い拳骨を食らわされ、アルベルトは祖父を見上げる。


「うん、ごめんなさい」

「何でクレアはこんな時間に森に行くなんて言い出したんじゃ?」

「あー...森の妖精を見つけたって」

「妖精?」


そこでアルベルトは今回の経緯を説明する。


以前母親との喧嘩が原因でクレアが家出をした時、クレアを連れ帰って来たのは探しに出た大人達ではなく、普段から行動を共にしていたアルベルトだった。

その時に、夜の森の中の泉で銀の髪をした女性を見かけたのだ、と。


それを妖精だと言い張るクレア。

アルベルトも同じ光景を目にはしていたし、どこか人間離れした神秘的な光景であった事も認める。

だが妖精であるかと問われれば、そんな馬鹿な...となってしまうのでる。

それに腹を立てたクレアが、もう一度夜の森に確認に行く!と行動してしまったのが、今回の騒動の発端だった。


「本当は村から出る前に止めようと思ってたんだけど...」

「...ま、聞かんじゃろうな」

「あはは...」


頬をポリポリと掻きつつ、苦笑いを返す。

クレア自身他人に害意を持ったり悪意で人を騙したり、そう言った真似はしない。

根本的には純粋であり、真っ直ぐである。

真っ直ぐ過ぎる事が問題な位には。


思い込んだらそれを曲げる事は中々しないし、興味を持ったものには何でもすぐ近付いていく。

これをしたい!と思えばそれはクレアの中でもう決定済の事項で、力尽く以外の手段で止めるのは容易ではない。

忠告の言葉等には耳を貸さない。

反対意見など最初から聞いてすらいない。


そして彼女の中に淑女等と言う言葉は存在しない、そんじょそこらの男の子よりも、よっぽど活発なのである。


極端なまでに猪突猛進で強気、かつ自らの欲望に素直過ぎるその性格が災いして、友達等アルベルト以外には居ない。

大半の大人でさえ、トラブルメーカーな彼女を疎ましく思っているのが現状だった。


「妖精、のう...。で、どうじゃった?」

「え?」

「その妖精じゃよ、居たのか?」

「あぁ...うん、妖精かどうかは別にして、人が居たのは本当だよ」

「そうか...」


ふーむ、と腕を組みながら何事か悩み出す祖父を見て、アルベルトは首を傾げた。


「おじいちゃん?」

「おお、すまんすまん。ともかく今日はもう遅い。詳しい話しは明日するとして、今夜はもう寝よう。クレア、明日起きたら必ず儂の所に来るんじゃぞ」


コクン、とクレアが頷く。

その後互いに挨拶を交わし、アルベルトも祖父にお休みを告げてベッドに潜り込む。

そして目を閉じ、瞼の裏に泉の彼女を思い浮かべながら眠りについた。






——ここは...どこだ...?


淡い白に包まれた世界。

微かに光るその白い世界で、アルベルトは自らの身体が浮いている事を自覚する。


——まるで...水の中みたいだ


ゆっくりと手を動かせば、その動きに合わせてキラキラと光の粒が流れるのが見えた。


——光の...海?


キョロキョロと辺りを見回す。そして、少し離れた場所に同じ様に浮かぶ誰かの姿を見つける。


——あれは...


漂う銀の長い髪が、淡い光を受けて周りに負けじとキラキラ輝きを放っていた。

泳ぐ様にして彼女に近付けば、その顔は穏やかに眠っている様に見える。

だがその目尻からは一筋の涙が流れていた。

思わず手を伸ばし、その涙を親指で拭う。

この美しい人は一体何者なのだろう、どうして森の中に居たのだろう、どうして泣いているのだろう。

どうしてこんなに...


——...綺麗...だ






そこでハッとアルベルトは目を覚ます。

淡く輝く白い光の海は消え、視界に映るのは自身が寝起きしている小屋の天井だった。


「...夢?」


彼女の頬に触れた感触が、まだ残っている。

思わず自分の手を凝視すれば、涙を拭った彼の右手親指に淡い輝きを放つ何かが残っていた。


「...夢、じゃ...ない」


あれは一体何だったのか。

あの海は。光は。彼女は。


(何で...泣いてたんだろう)


ただクレアを止めるのに失敗して、放って置く訳にもいかず、森へついて行っただけだった。

彼自身は森の妖精の事等、大して気にもしていなかったのに。


(何で...)


にも関わらず、彼の心を埋め尽くしていたのは、もう一度彼女に会いたい。

ただその一つだった。

ちょこちょこと書き進めては書き直し、書き進めては書き直し、予定してたよりも時間がかかりました(*_ _)

目指すは3〜4日に1話UP。上手く書ければもっと早く。

頑張るぞー。

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