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六本木抄  作者: 東亭和子
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金木犀の風花

 私があの人に出会ったのは、中学一年生の時でした。


 甘い匂いに視線を向けると黄金色の花を見上げたあの人がいたのです。

「いい匂いですね」

 あの人は視線を花から離さぬままに言いました。

 私は頷くとその場を立ち去りました。

 何故かあの人の邪魔をしてはいけないと思ったのです。

 振り返ると降り散る花びらの中であの人は霞んで見えました。

 それから私は毎日あの人を見つけました。

 あの人はいつも同じ場所で花を眺めていました。

 花が全て散ってしまうまで、あの人はいたのです。


 私は中学二年生になりました。

 そしてまた秋がやってきました。

 金木犀(あれから調べてあの花の名前を知りました)が甘く匂っています。

 あの人はいるのでしょうか?

 私は去年のあの場所であの人を見つけました。

「こんにちは」

 あの人が私に笑いかけました。

 それは儚い微笑みでした。

「こんにちは」

 私も挨拶を返して微笑みました。

「今年も綺麗ですね」

 そう言うとあの人は金木犀を眺めました。

「はい。とても綺麗です」

 私が答えるとあの人はとても嬉しそうに微笑みました。

「僕は金木犀が一番好きなんです。

 儚く散っていくだけなのに甘い匂いで人を魅了する。

 僕もそうなりたいと願ってしまう。

 君は金木犀は好きですか?」

「好きです」

 私は金木犀の甘い匂いを吸い込みました。

 体に甘い匂いが充満して少し落ち着かなくなりました。

 ふわりと風が吹いて花びらが舞い、あの人の姿を隠してしまいます。

 私はそれをずっと眺めていました。


 私は中学三年生になりました。

 そうしてまた秋が巡ってきました。

 私は金木犀の場所へ行きました。

 またあの人に出逢えると思ったのです。

 しかし、あの人はいませんでした。

 次の日もその次の日もいませんでした。

 もう来ることはないのでしょうか?

 私はとても悲しくなりました。

 あの人に出逢える秋を楽しみにしていたのです。

 あの人はどこに行ってしまったのでしょうか?

 金木犀が全て散っても、あの人は現れませんでした。


 その後、あの人が病気で亡くなったという話を聞きました。

 長期入院していたあの人は、秋になると病院を抜け出して金木犀を眺めていたそうです。

 儚い花の命を自分と重ねていたのでしょうか?

 それから私は秋になると金木犀を眺めるようになりました。

 風が吹いて花が散る中にあの人が見える時があるのです。

「待って!行かないで!」

 叫んでもどうにもならないことはわかっています。

 それでも私は叫んでしまうのです。

 その願いが叶わないと知っていても。

 私はあの人を探してしまうのです。




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