王子が不幸になる婚約破棄~寵妃の罠 編~
『王子が不幸になる婚約破棄~ ○×編~』と似たようなタイトルがありますが、それぞれが別の話になっています。
続きはありません。
「スウィーティー、お前との婚約を破棄する!」
久しぶりに来た学校で、それもお昼時の生徒が大勢いる食堂で、ソフトーム王子様がこのような寝言を言いました。
私とソフトーム王子様との婚約は、正室腹でなく国王様が寵愛している側室様の子ソフトーム王子を次期国王にしたいがために、私との婚約をさせフルーツ公爵家の後ろ盾を得ようとしていたことが始まりです。
貴族の常識である政略的な婚約ですらない。
寵愛している側室様にいい恰好をしたい国王様が、その側室様との子を次期国王にしたいというワガママを『王命』という素敵な言葉に変えての拒否権なしの強制された婚約です。
ちなみに、その側室様とご実家はソフトーム王子様が次期国王の資質がないことを理解しているので、国が荒れる原因となるこの婚約には反対しました。
そして、その側室様はこの婚約の条件として『ソフトーム王子から私に婚約破棄』をすれば、ソフトーム王子を廃嫡するとの条件を付けこの婚約に同意しました。
実の母親から、次期国王の資格はないと断じられるソフトーム王子様はどういう方なのかと想像に難くないでしょう。
そんなことを考えていると、空気が読めない電波系として有名な実妹が、
「お姉さま、誤魔化さないで! ちゃんと私がソフトーム王子様と仲良くなって嫉妬したからイジメたって認めて下さい!」
「「「「「「そうだ。そうだ」」」」」」
この中に、義弟がいるのは頭の痛い話です。
「お前は、本当にどうしようもない女だな。せめて、マリアージュをイジメた事を認めろ!」
ちょっと、待って妹よ!
私が、頭も性格も精魂も腐ったイジメる価値のない女をどうしてイジメなければいけないのでしょう?
周りの生徒たちが、呆れた顔しているのが気付かないのですか?
そして、その場にいる先生方が般若のような顔になっていてどす黒いオーラを出しているのも気付かないのでしょうか?
とりあえず、根本的なことを聞きましょう。
「妹、いつ私があなたをイジメ始めました?」
ぶっちゃけ、学校での勉強課程を修了したので、今年から領地経営を専門に教えるお貴族様専用学校に通っていたんですよね。
これは、国王様の推薦です。
ソフトーム王子様を支えるために、通えって国王様から 命令されたんですよ。
今は、国王様の命令で一時的にこの学校に戻っています。
「今年からよ。ホント、ヒドイわお姉さま。いくら、ソフトーム王子様が自分を愛してくれないからって!」
妹、少しは周りを見て!
先生や生徒会の迷惑を被っている生徒たちは目を座らせ始めましたよ!
不機嫌オーラMAXですよ。
生徒会の人たちは、妹の取巻きになり下がってから悪評の嵐となり、生徒会の尻拭いをしている人たちの迷惑になっているらしいです。
妹のある種の才能にお姉さまはビビりました。
とりあえず、私は目が笑っていないとびっきりの笑顔で
「この書類たちが、目に入らぬか―!」
棒読みです。超棒読みです。
「書類が、目に入るわけないだろ!」
やる気のない台詞に、ソフトーム王子様は律義にツッコミを入れてきました。
そして、書類を奪い取る。
書類を奪い取って青褪めるソフトーム王子様。
そこに、タイミングを狙っていた王妃様とソフトーム王子様のお母様である側室様と側室様たちと国王様たちが、この場に乱入。
衛兵たちは、何かあった時のために食堂の隅に控えています。
私にとっては乱入ではありませんが、妹と取巻きたちにとっては乱入です。
「あなたには失望したわ、ソフトーム」
ソフトーム王子様のお母様である側室様の冷たい声が食堂内に響き渡ります。
あの側室様から、冷たい冷気が漂っている感じがして食堂内の温度が若干冷えたように感じがしました。
「違います、母上!あの女が心優しいマリアージュに嫌がらせをしていたのです。私は王族として、正しいことをしました!」
「へぇ?」
ますます、側室様は冷たい声で返事をしました。
国王様にいたっては、真っ青です。
「ソフトーム。あなたの言っていたアリエル・シーメール公爵令嬢のマリアージュ嬢への嫌がらせですが、王家の直属の諜報部が総力を持って調べ上げた結果、すべてマリアージュ嬢の自作自演と判明いたしましたよ。だって、あなたがアリエル・シーメール公爵令嬢が嫌がらせしていたと言った時期は彼女が王命で別の学校に通っていた時期だけだもの」
「嘘だ!」
「あら、あなたは国王様がついた嘘だというの?調べたのは、王家の絶対的な信頼を受けている諜報部よ」
「それは...」
反論するすべがなく、言い淀むソフトーム王子様。
そこに、母親である側室様が止めを刺しに行きます。
「ソフトーム、今を持ってあなたを王籍から抹消します。ソフトームにつき従っていた者たちは、廃嫡です。追って、各家の当主から詳しい沙汰が下されるでしょう」
「ウソよ。ウソよ。ウソよ。私は乙女ゲームの主人公なのよ!ここは、私が幸せになるためにある世界なのよ。こんなことになるはずないわ!」
妹よ。空気を読まずに電波な発言をする場じゃないですよ、ここは。
それにしても、自分はヒロインですか。
とうとう、精神がイッちゃたんですね。
なるほど、巷の小説で流行っている逆ハーレムをしてみたかったのでしょうか?
それなら、お姉さまは応援しますよ。
臭い物に蓋を閉めるのは当たり前ですよね?
「国王様」
私は、王様にお伺いをたてました。
「なんだね?」
王様、頑張ってください。このままでは、寵愛する側室様に見捨てられますよ。
「私が、ソフトーム王子様の婚約者になることに当たって一つお願いごとをしていいんでしたよね?」
「そうだな」
「それは、本当か!アリエル、俺を婚約者に戻せ!俺の命令だ!それなら、俺は次期国王のままでいられる!」
自分勝手な主張をする元婚約者に対して、一層冷たい視線を向ける彼の母親。
もちろん、私は無視します。
そんな都合のいい展開に私がするはずはありません。
公爵家の義務や在り方を理解しているのですよ。
王子としての義務はこなさない癖に、権力だけは一人前に使う無能の味方をするはずはないじゃないですか。
この元婚約者は、とことん人を馬鹿にしたいようです。
「元婚約者とその仲間たちは、マリアージュを愛して一緒になりたいと言いました」
「そうだな。今までの態度が、そう物語っている」
「なら、愛し合う者同士で一緒になってもらいましょう」
「どういうこと?」
機嫌を直した側室様に訊かれました。
「妹は、取巻きたちに愛してもらいたいようですので、一緒になってハッピー・エンドなんていかがでしょうか?妹の取巻きたちの家も彼らの処分に困るかもしれませんし、みんな押し込めればみんなが幸せになります。民には、精神を病んで療養地に引っこんだとでも言っておけばいいですよ」
「それは、素敵な考えね。そうしましょう、王様」
拒否は許さないというように言う側室様。
「わかった、そうしよう。衛兵、この者たちを連れて行け!」
国王様が、国王様としての威厳をたっぷりに言いました。
出番は、寵愛する側室様に奪われていますからね。
「こんなことありえないわよ!私が、王妃になって好きなように贅沢を尽くすはずなのよ!なんで、なんで、こんなことになるのよ!乙女ゲームでは、こんなエンドはなかったわ!」
やはり、妹の電波はなくならないようでした。
両親は、これでも電波な妹の教育に努力したんですよ?
意味不明なことを言ってますね。
オトメゲームってなんですか?
顔のいい男たちを侍らし使い物にしなくなることなのでしょうか?
迷惑ですね。
妹の取巻きたちは、元から使えないと評判の馬鹿ばかりだったので、これで一掃できたので結果だけで考えれば、いいことなのでしょう。
「アリエル、婚約者の俺にこんな扱いをしていいと思っているのか?今すぐ、俺のために婚約者に戻れ!こんなはずじゃなかった。愛するマリアージュと幸せになるはずだったんだ!」
元婚約者はなにやら訳の分らぬ自分理論を言って喚いています。
妹の取巻きたちもそれに合わせて騒ぎだします。
喚きたてる妹と取巻きたちを衛兵たちが取り押さえて連行していきました。
その後、妹の取巻きたちは辺境の片隅に療養の名のもとに監禁されたのでした。
よかったですね、妹。
これで、あなたの世界であなたの好きな逆ハーレムの完成ですよ!
・この世界は乙女ゲーム世界です。
乙女ゲーム世界と気付いているのは、マリアージュとソフトーム王子の母親だけです。
・ソフトーム王子の母親は、王妃や他の側室たちと仲良しです。
・ソフトーム王子は軟弱な精神をしているので、王族としての教育を逃げていました。
それを何とかしようと、国王と王妃と王子の母親と側室たちは心を砕きましたが、逃げることになれたソフトーム王子には通じませんでした。
・主人公が、乙女ゲーム期間に領地経営を専門に教えるお貴族様専用学校に通っていたのは、国王様の命令ではなく王子の母親が被害を最小限に抑えようと国王様にお願いしたためです。
・王子が、主人公から奪い取って書類は「領地経営を専門に教えるお貴族様専用学校に通っていた証明書」「その学校に通うことを支持する王命を書いた書類」「婚約破棄に伴う王子の処遇の説明書」というすべて偽造ができない書類です。
読んでくださり、ありがとうございました。