【タナベ・バトラーズ】静けさの中で
周囲の余計な気遣いのせいでアルベニアとエブロバは二人きりになってしまった。
二人だけになった室内に流れるのは気まずい空気。
毒々しさはないものの愉快さもない、無と言うには少々緊迫感のある、そんな空気が場を満たしている。
気を遣ってしまうがゆえに何も言えないエブロバ。
まだそれほど親密でない高貴な人、それも異性を前にして、器用に話題を提供することはできなかった。
静寂の中、壁にかけられた時計の秒針だけが息をしている。
「ねぇ」
やがて、先に口を開いたのはアルベニアの方だった。
「黙ってるだけって、時間の無駄じゃない?」
彼女はさらりとそんなことを言う。
「どのみちこうして二人でいなくちゃならないのなら、せめて何か有意義な話でもしましょうよ」
「あ……う、うん」
「貴方のことを知りたいわ。……たとえば、兄弟の話なんてどうかしら」
アルベニアがそう言った瞬間、エブロバの表情が凍りつく。
日頃はもちもちとしている彼がこの世のすべての闇を背負ったような顔をしたものだから、アルベニアもさすがに異変に気づいたようで、若干困惑した様子で数回まばたきする。
「話題に問題があったかしら」
「実は、その……二年前、弟が、亡くなって……」
「問題があったようね、じゃあこれ以上触れないでおくわ」
「ごめん……」
「いいえ、謝る必要はないわ」
エブロバはソファに座ったまま俯いていた。
「なら、戦闘の話なんてどう? アタシが得意なのはナイフを使った戦闘ね」
「ああうん……」
「興味がないならそう言えばいいのよ」
「ごめん、そうじゃなくて、でも……」
「思ったことがあるなら言えばいいじゃない」
数秒の沈黙の後、エブロバは口を開く。
「正直、アルベニアさんには、戦いなんて覚えてほしくないよ」
言いたいことを言おうとして。
けれど躊躇いも小さくなくて。
そんな状態で彼が紡げる言葉には限りがあった。
「戦いとか、争いとか、そういうのは何も生まないから嫌いだよ」
淡い橙色の瞳には深海のような影が滲んでいた。
「……ま、そうね」
目の前にいる者の心を静かに受け入れるかのように、アルベニアはそっと目を閉じた。
「間違っているとは思わないわ」
◆終わり◆




