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掌編置き場

掌編【理想】

作者: 冬木香
掲載日:2026/04/23

 一代で富を築き上げてきた。

 天涯孤独の身だったが、かなりの苦労と引き換えに莫大な資産を手に入れた。

 だけど、この使い切れないほどの金はどうすればいいのだろうか。


 50歳を過ぎてからそんなことを考えるようになった。

 このまま死んだら国に全てを奪われることになる。

 その時、街頭モニターに流れる広告が目に入った。


『独り身でも、資産を相続しませんか?』


 どうやら自分のクローンに資産を相続させる、独り身向けのセルフィーというサービスらしい。

 確かに子供がいなくても、自分にだったら全てを相続してもいいかもしれない。そう思いすぐに申し込みをした。


 数ヶ月後、クローンに会いにセルフィー本社に向かう。

 受付で名前を告げると大きな研究施設の一角に通された。


 そこには小さな赤ん坊がいて、それが自分のクローンだと思うと少し愛着が湧いた。

 さらに成長の過程で、私のこれまでの人生を脳に少しずつ学習させていくという。

 次に会う頃にはまさに自分のクローンに会えることになるだろう。


 申し込んでよかったな、と思いながらセルフィー本社を後にする。

 次に来るのは先のことになると思うが、楽しみで仕方がなかった。



 20年後、久しぶりにセルフィー本社に向かうことになった。

 最近は成人となった自分のクローンと対面する瞬間ばかり想像していた。

 受付で名前を告げて、20年前と同じ研究施設に通される。


 部屋の扉が開くと、そこにはまさに自分自身が立っていた。


「よろしく、私。すべての資産を相続するから、あとは頼むよ」


 そう言って握手をしようと手を差しだす。

 それを見て私のクローンが口を開いた。


「俺は一人で生きていく。施しなんて受けたりはしない」


 差し出した手が握り返されることはなかった。

 私は手を引っ込めると、次の申し込みをするために受付に向かった。

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