掌編【理想】
一代で富を築き上げてきた。
天涯孤独の身だったが、かなりの苦労と引き換えに莫大な資産を手に入れた。
だけど、この使い切れないほどの金はどうすればいいのだろうか。
50歳を過ぎてからそんなことを考えるようになった。
このまま死んだら国に全てを奪われることになる。
その時、街頭モニターに流れる広告が目に入った。
『独り身でも、資産を相続しませんか?』
どうやら自分のクローンに資産を相続させる、独り身向けのセルフィーというサービスらしい。
確かに子供がいなくても、自分にだったら全てを相続してもいいかもしれない。そう思いすぐに申し込みをした。
数ヶ月後、クローンに会いにセルフィー本社に向かう。
受付で名前を告げると大きな研究施設の一角に通された。
そこには小さな赤ん坊がいて、それが自分のクローンだと思うと少し愛着が湧いた。
さらに成長の過程で、私のこれまでの人生を脳に少しずつ学習させていくという。
次に会う頃にはまさに自分のクローンに会えることになるだろう。
申し込んでよかったな、と思いながらセルフィー本社を後にする。
次に来るのは先のことになると思うが、楽しみで仕方がなかった。
20年後、久しぶりにセルフィー本社に向かうことになった。
最近は成人となった自分のクローンと対面する瞬間ばかり想像していた。
受付で名前を告げて、20年前と同じ研究施設に通される。
部屋の扉が開くと、そこにはまさに自分自身が立っていた。
「よろしく、私。すべての資産を相続するから、あとは頼むよ」
そう言って握手をしようと手を差しだす。
それを見て私のクローンが口を開いた。
「俺は一人で生きていく。施しなんて受けたりはしない」
差し出した手が握り返されることはなかった。
私は手を引っ込めると、次の申し込みをするために受付に向かった。




