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父のみぞ知る

掲載日:2026/02/28

短編です

 父の死の間際、病床で私の手を握って父はこういった。

「お前には、実はもう一人兄がいる」

 私の目を真っ直ぐに見つめる父の目が、妙に記憶に残っている。

 父の葬儀の日、母が喪主を務めるので、私は受付係に立った。

 父の残した連絡帳を駆使して、連絡できる人に片っ端から連絡した。でも最近は葬式も昔ほど大々的には行わない。父は別に会社の社長とかそう言う役職についていたわけじゃないから、そもそも呼ぶ人もほとんどが親族だ。

 祖父母の葬式の時くらいしか会うことのなかった親戚たち。それでも一応顔に見覚えのある人たちばかり。

「まぁ、本当だったとして、今の今まで存在を隠してたんだから、来るわけないか」

 無事葬儀は終わって、結局見知らぬ男性はいなかったなぁと思い返す。わざわざ死ぬ間際に私にだけこっそりそう伝えたんだから、きっと訳アリなんだろう。深く追求はするまい。

 泣き崩れる母を支えて、私たちは家に帰った。さて、役所の手続きがまだ残ってるんだった。明日から少し忙しいぞ。

 市役所で戸籍に関する書類を集めていると、父の本籍が今の住所と違っていると書かれていた。役所の人に聞くと、生まれてからの変更した住所などが載っている原戸籍も取得してほしいが、本籍のある役所に行かないとそこまでは取得できないと言われた。

「えぇ、じゃぁ本籍まで取りに行かなきゃじゃん」

 頭を抱えていても仕方がない。まだ仕事の休みは少しある。旅行と思って言ってこよう。

 役所に行くついでに、父が昔住んでいた家に行ってみることにした。もしかしたら、その兄という人に会えるかもしれないと思った。まぁ会ってどうするわけでもないけど。

 住所を頼りに家に行くと、小さな一軒家が建っていた。3人家族なら難なく住めそうなサイズ感だ。

「うちに何か」

 まじまじと見ていると、野太い声が聞こえてきた。

 振り返ると、身長の高い、ガタイの良い男性が立っていた。

「あ・・・えっと・・・私○○の娘です」

 思わずそう言うと、男性は眉をしかめた後、小さくそうですかとつぶやいて、家に入れてくれた。

「あの、私の兄にあたる方ですか?」

「兄・・・そうですね、生物学上は」

「生物学上・・・」

 兄はぽつぽつと身の上を話してくれた。

 兄は母親が違うけど父の実の息子であること、兄が小学校に上がるころに父が浮気をして出ていったこと、そして兄には女装趣味がある事。

「・・・ちょっと情報量が・・・」

「え、ソレを聞いて会いに来たんじゃ」

「え?」

 兄は仏壇から写真を撮りだしてきた。

「俺の母が亡くなった時教えてくれたんですけど、父は、あなたの父でもある○○は、実は女装キャバレーで働いていたって、母は、そんな父に惹かれたんだって・・・」

「女装・・・キャバレー!?」

 思わず大きな声を出してしまったけど、自分の記憶の中の父にそんな情報はない。

「母が言うには、“自分の息子にはいばらの道を歩ませたくない”って言って出ていったそうですけど・・・」



——うーん、情報量・・・——

言うべき事、もっと他にあったんじゃないの?

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