【6話】知らないほうがいいこともある
最近、村で妙な流行が生まれていた。
「レベル、いくつだと思う?」
「うちの息子?多分2」
「低っ!」
なお、この村にレベルを測る手段は存在しない。
ギルドもない。
測定水晶も刻印も、当然ない。
完全に雰囲気である。
「……で」
リュカが俺を見る。
「今、何を考えてる?」
「ノートで測れないかな、って」
「やめなさい」
即答だった。
「絶対ろくなことにならない」
否定できなかった。
夜
俺は机に向かい、ノートを開いていた。
相変わらず最初のページは例の剣。
2ページ目には、あの文。
『条件:恐怖と強い意思』
「……なあ」
小声で話しかける。
「レベルとか、分かんないの?」
沈黙。
――と思った次の瞬間。
ページの隅に、ちょろっと文字が浮かんだ。
『測定不要』
「え、便利」
間髪入れず、追記。
『※数字にすると調子に乗るため』
「理由が辛辣すぎるんだけど!?」
さらに。
『※前例あり』
「俺の前世を持ち出すな!!」
ノートは満足したのか、それ以上は何も書かれなかった。
翌朝。
「レベル測ろうとして、ノートに止められた」
「でしょうね」
リュカは、まるで天気の話を聞くような反応だった。
「でもさ」
俺は言う。
「成長してるか知りたくない?」
「知る必要ある?」
「あるだろ!」
「生き残れるなら、それで十分でしょ」
正論すぎて、何も言えない。
「そもそも」
リュカは続ける。
「数字にした瞬間、比べられるじゃない」
ぐさっと刺さる。
「……うちの村、そういうの好きだし」
「でしょ」
沈黙。
その間、胸の奥でノートが――
なぜか、どやっとした気配を出す。
(お前、今ちょっと誇らしげだったろ)
昼過ぎ。
村の子どもたちが、木の棒を振り回していた。
「俺レベル100!」
「ずるい! 俺も100!」
完全に適当である。
その光景を、少し離れた場所から眺めながら。
「平和だな」
「うん」
俺は、ふと思う。
レベルは分からない。
強さも、比べられない。
でも――
生きて帰れた。
薬草を持ち帰れた。
母さんが笑った。
「……今は、これでいいか」
その瞬間。
ノートが、ぴらっとめくれた。
『※現段階では非公開推奨』
「非公開って何だよ!」
リュカが、ちらっと俺を見る。
「また何か言われた?」
「うん」
「無視しなさい」
即断だった。
「調子に乗ると、確実に面倒になる」
「もう手遅れな気もする」
落ちこぼれは、まだ名乗らない。
レベルも、測らない。
だが確実に――
何かだけは、育っていた。
それが何かは、まだ誰にも分からない。




