【4話】調査とでしゃばりな黒歴史
村の入り口に立っていた2人組は、どう見ても場違いだった。
革鎧は手入れが行き届き、腰の武器も実戦向け。胸元には、冒険者ギルドの紋章。この村では、明らかに浮いている。
「……来たわね」 「来たな……」
俺とリュカは、ほぼ同時に呟いた。
Cランク級の被害。放っておけば、ギルドが動くのは当然だ。
「聞き込みから始める」
無精髭の中年冒険者が、淡々と言う。
「村人は怯えてる。余計な噂を広げないように」
「はいはい」
若い方は軽い返事をしながら、すでに市場の方へ歩き出していた。
「……ねえ」
リュカが小声で言う。
「これ、私たち普通に巻き込まれる流れじゃない?」
「だろうな」
薬草を売るだけのはずが、いつの間にか“関係者候補”である。
俺は胸に抱えたノートを、そっと押さえた。
――頼むから、今は大人しくしてくれ。
「森の被害、見ました?」
案の定、若い冒険者が話しかけてきた。
「木が何本もへし折れてて。正直、かなり厄介な相手だと思うんですが」
「さ、さあ……」
俺が言葉を濁すと、リュカが横から入る。
「私たち、森の奥までは行かないから」
「薬草も、村の近くだけですよ?」
嘘ではない。問題は、その“帰り道”だ。
「なるほど」
若い冒険者はメモを取りながら、ふと俺を見る。
「君、冒険者志望?」
「い、いえ」
一瞬、空気が止まった気がした。
だが彼はすぐに視線を外し、軽く笑う。
「なら安心だ。冒険者でもない子どもが、あんな相手に出くわすわけない」
「……ですよね」
喉が渇く。
心の中で、全力で同意しておいた。
聞き込みが進むにつれ、村の緊張も少しずつ解けていった。
「自警団が当たるには危険すぎる」 「応援が来るまで、村の外には出ない方がいい」
そんな、もっともらしい結論。
中年冒険者は腕を組み、低く唸る。
「妙だな」
「何がです?」
「被害の割に、血の跡が不自然なくらいにない」
俺は、心の中で土下座した。
血が出なかったのは…… 一撃で終わらせたからだ。
「……まるで」
中年冒険者が続ける。
「“何か”が、試し撃ちでもしたみたいだ」
――やめてくれ。
その表現、妙に的確すぎる。
その夜。俺は自室で、ノートを開いていた。
例の1ページ。相変わらず、「暗黒黒影・終焉剣」の設定と技名だけが並んでいる。
「……なあ」
小声で呟く。
「少しは、空気読めないのか」
返事はない。当然だ。ノートなのだから。
――そのはずだった。
ページの端に、じわっと黒い染みが浮かぶ。
「おい」
よく見ると、それは文字になりかけている。
『※注意:威力過剰』
「注意で済ませるな!」
思わずツッコミを入れてしまった。
瞬きをすると、文字は消え、再び白紙に戻る。
「……何なんだよ、これ」
恐怖よりも、困惑が勝つ。
不穏というより―― 完全に、出しゃばり始めた黒歴史だった。
「書き直せないなら、せめて黙っててくれ」
ノートを閉じると、妙にすっきりした気分になった。
翌朝
冒険者たちは森へ向かう準備をしていた。
「調査が終われば、しばらく村は安全だろう」
中年冒険者の言葉に、村人たちは安堵の息をつく。
その背中を見送りながら、リュカが囁いた。
「……今のところ、バレてない」
「ああ」
だが、安心するには早い。
ノートは消えない。力も、なくならない。
そして何より――
「調査って、だいたい“想定外”から始まるのよね」
リュカの言葉が、妙に重かった。
俺は苦笑しながら、空を見上げた。
落ちこぼれは、まだ名乗らない。
だが――
次に何かが起きるとしたら、今度は“偶然”では済まない気がしていた。




