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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第4章】やりたかったこと

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【41話】話は終わっていなかった

店を購入した、その夜。

俺は部屋で考えていた。

金を稼いで、建物を買って、店を持つ。

強くなることばかり考えていた頃の俺からしたら、ずいぶん回りくどい。


「トウマ様」

セラの声は、相変わらず穏やかだった。


「少し、考え込んでいらっしゃるようですが」


「考え事ってほどじゃない。ただ……」


今日の不動産屋の顔が、頭をよぎる。


子供を見る目。

値踏みする視線。

最後に浮かべた、納得していない笑み。


「……面倒ごとが来そうだな、って」


リュカが即座に反応した。


「来ると思ってた」


「だよな」


その直後だった。

窓の外、闇の中に――意図を持った気配が増える。

数は、複数。


「来る」

リュカが低く告げた瞬間、ガラスが割れた。


侵入者は四人。

動きは荒いが、迷いはない。完全に雇われ仕事だ。


リュカの矢が、正確に関節を射抜く。

一本で足を止め、二本目で武器を落とす。


残りは俺が引き受けた。

闇属性の魔力を、最低限だけ。

出力を抑え、代償が出ないライン。


力でねじ伏せる必要はなかった。

弱点を突けば、十分だ。


数分後、侵入者は全員、床に転がっていた。


「……誰の差し金だ」


答えは、最初から分かっている。

それでも聞いた。


「……不動産屋だ。」


やっぱりな。


セラが一歩近づき、柔らかく言う。

「トウマ様、どうなさいますか?」


俺は、少しだけ考えてから答えた。

「連れて行く。話を終わらせる」


翌朝。

刺客たちを引き連れて不動産屋の店に入った瞬間、空気が凍りついた。


「な、なんだこれは……!」


「昨夜、うちに来た人たちです」


俺は淡々と告げる。

「挨拶がなかったので、こちらから伺いました」


「違う! 私は知らない!」

必死に否定する声。


だが、俺は言葉を被せた。

「じゃあ、これは勝手にやったってことですね」


視線を刺客たちに向ける。

「この人、そう言ってますけどどうですか?」


刺客たちは必死に否定する。

「こいつに依頼されてやったんだ!相手は子供だから楽な仕事だって……」


不動産屋の顔が、目に見えて青くなる。


「……待て!」

叫ぶように言ったあと、急に声色を変えた。


「条件がある……!私が所有している不動産を、無償で譲渡する!だから、この件は……!」


必死だった。

金と物で解決できると、本気で思っている顔。


俺は、一瞬だけ考える素振りを見せてから、首を横に振った。


「いらない」


「……は?」


「要らない」

はっきり言った。


「管理が雑で、評判も悪い。そんな物件、持った瞬間に面倒ごとが増えるだけだ」


「な、何を……!」


「子供でも分かるんだよ」

俺は、静かに続ける。


「金で全部解決できると思ってる時点で、あんたはもう商売人じゃない」

不動産屋の肩が、がくりと落ちた。


「俺たちが欲しいのは、財産じゃない」

一歩、距離を詰める。


「静かな日常だ。二度と関わらない。それだけ守れ」

沈黙のあと、力なく頷く。


「……わかった……」


セラが、変わらない穏やかな声で締めた。

「ご理解いただけて、何よりです。トウマ様は、非常に寛大なお方ですので」


それが、最後の一押しだった。


店を出たあと、リュカが小さく息を吐く。


「……あれでいいの?」


「うん」


 セラは微笑んだまま言う。

「正しいご判断です、トウマ様」


拠点に戻り、扉を閉める。

余計な火種は、これで終わりだ。


「……さて」

俺は机の上に、腕輪を置いた。


「ようやく、本来の目的に戻れるな」


強くなるためじゃない。

目立つためでもない。

静かに、確実に生きていくための――

日用品作り。

それが、俺たちの次の一歩だった。



翌日。本格的に開店に向けて動き出す。

店の内装については、二人に任せることにした。


「棚の配置は、動線を優先した方がいいと思う」

リュカは見取り図を見ながら、淡々と案を出す。


「入口から奥が見渡せる方が、警戒もしやすいし」


「確かに」

セラは静かに頷き、壁や床の状態を確かめていた。


「修繕が必要な箇所は、私が対応いたします。トウマ様は、商品づくりに集中なさってください」


 その言葉に、俺は素直に甘えることにした。

「頼む」


役割分担は、悪くない。

むしろ、しっくり来ていた。


俺は拠点に戻る。

机の上に並べたのは、以前試作した拭き布。

前世の知識と現世の魔力を組み合わせて作った、汚れ落ちが異常に良いやつだ。


「……やっぱり、これからだな」


魔道具ほど目立たず、武器にもならない。

けど、生活に確実に根付く。


布の繊維を選び、闇属性の魔力をほんの僅かに通す。

強化でも付与でもない。

“なじませる”だけ。

それだけで、耐久性と吸着力が跳ね上がる。


「出力は……このくらい」


毎日のスライム狩りのおかげで体力がついたので疲労もほとんどない。


量産に向いている。


一枚、二枚、三枚。

無心で手を動かしていると、時間の感覚が薄れていった。


気づけば、窓の外が夕焼け色に染まっている。


「トウマ様」

ノックの音と共に、セラの声。


「よろしければ、進捗をご報告いたします」


「うん」


扉を開けると、セラはいつも通り穏やかに微笑んでいた。

「店舗についてですが、最低限ですが整いました。棚とカウンターも設置済みです」


「リュカ様も、とても的確な配置を考えてくださいました」


「それは助かる」


視線を作業机に戻すと、積み上がった拭き布の山。


セラは一瞬だけ目を丸くしてから、すぐに表情を戻した。


「……想像以上ですね」


「数は必要だと思って。どのくらい売れるか分からないし」


セラは、はっきりと言った。

「これは、売れます」


妙な確信のこもった声だった。

翌日からも、同じことを繰り返した。


朝、作る。

昼、作る。

夜、少しだけ調整。


リュカとセラは店を整え、掃除をし、値札を用意する。


俺は、拭き布を作り続けた。

派手さはない。

でも、確実に積み上がっていく感覚があった。


オープン前日。

一階に並んだ商品を見て、俺は小さく息を吐いた。


「……ちゃんと店、だな」


リュカが腕を組んだまま言う。

「最低限だけど、問題ない」


セラは頷く。

「静かで、誠実なお店です。トウマ様らしい」


俺は、少しだけ照れくさくなって視線を逸らした。

「……明日からだな」


大々的な宣伝はない。

ただ、扉を開けるだけ。


それでも。

ここから、俺たちの商売が始まる。


剣でも、魔法でもない。

生活の中で、静かに役に立つものから。


――オープンの日は、もうすぐだった。

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