【11話】静かな緊張
村の柵が見えたところで、ヴァルドが歩調を落とした。
「……ここだな」
「何日か前にも来たけど」
エリオが伸びをする。
「なんか前回来たときとあんまり変わらないなぁ」
「うーん、なんだか危機感ないというか、何というか…」
村に入ると、すぐに声がかかった。
「ああ、ギルドの人たち!」
「調査に来てくれたのか!」
畑仕事をしていた男が、鍬を止めてこちらを見る。
「今日は森の奥には入らないんですか?」
「今日は情報収集だけだ」
ヴァルドが落ち着いて答える。
「明日、準備をしてから改めて入る」
視線が、自然と俺たちに向いた。
「トウマも、リュカも気を付けろよ。まぁ、ギルドの人がいるなら安心か」
「はい」
「ありがとうございます。」
エリオが小声で囁く。
「信用されてるね」
「……ギルドが」
井戸のそばから、別の声。
「森はどうだ?」
「何か分かったか?」
「今すぐ何か起こるということはない」
ヴァルドはそう言ってから、
「だが、気になる点はある」
村人たちは、その言葉を噛みしめるように頷いた。
エリオが、軽く笑って場を和ませる。
「明日、ちゃんと調べてきますよ」
「今日のところは安心して」
その一言で、空気が少し緩む。
俺は胸元に意識を向ける。
(……今日は静かだな)
ノートは、反応しない。
リュカが、小さく息を吐いた。
「数日前に一度来ただけなのに」
「もう日常に入り込んでる感じがする」
「そういうものよ」
「そういうものなのかなぁ……」
ヴァルドは、村長の家の方を一瞥する。
「明日、準備をしてから森に入る」
それは確認であり、
村全体に向けた合図だった。
日常は続いている。
だが、“外”との距離は、確実に縮んでいる。
落ちこぼれは、まだ名乗らない。
けれどもう――
何日か前には戻れなかった。




