【10話】ギルドと村へ
ギルドの建物は、朝から人の出入りが多かった。
武器を背負った冒険者、依頼書を眺める者、受付で揉めている者。
俺とリュカは、その中を抜けてカウンターの前に立つ。
「あ、昨日の」
受付の女性が、俺たちを見るなり気づいた。
「森の被害の件で来た子たちね。約束通り、今日は詳しい話を聞くってことで」
「はい」
喉が少しだけ乾く。
「まず確認だけど」
彼女は紙を取り出しながら言う。
「君たちは冒険者登録はしていない。間違いない?」
「……してません」
「村にも、ギルドはありませんし」
「そう」
淡々と頷き、視線を落とす。
「それで、被害の場所。倒木の範囲と、魔力の痕跡について」
俺は、昨日より少しだけ整理して話した。
森の奥、帰り道、異常な破壊痕。
言葉を選びながら、余計なことは言わない。
「……ふむ」
話を聞き終えた受付は、後ろを振り返る。
「ヴァルドさん」
「聞いてた」
無精髭の中年冒険者が、腕を組んだまま近づいてくる。
その隣には、若い男。そう、この前の冒険者たちだ。
「村にギルドがない以上、正式な依頼は出てない」
「だが、被害の内容だけなら、無視できる規模じゃないな」
若い男――エリオが、軽く肩をすくめる。
「正直、村の自警団じゃ無理でしょ。これ」
「……ですね」
俺は小さく答える。
「だから」
ヴァルドが言う。
「現地を確認する」
「俺たちが、村まで同行する」
一瞬、言葉が詰まった。
「え……一緒に、ですか?」
「他に方法があるなら言え」
淡々としているが、拒否の余地はない。
リュカが、横から口を挟む。
「村に戻るだけなら、今日中に行ける……」
「ああ」
「……森の奥まで?」
「被害次第だ」
短い応答。
エリオが、俺たちを見てにやっと笑う。
「安心しなよ」
「子ども二人に全部押し付けるほど、俺たち薄情じゃない」
その言い方が、逆に怖い。
「ただし」
受付の女性が付け加える。
「調査結果次第では、正式依頼になる」
「その場合、関係者として話を聞くこともあるから」
胸の奥が、きゅっと締まる。
「……分かりました」
そう答えるしかなかった。
ギルドを出ると、リュカが小声で言う。
「これ、もう後戻りできないやつね」
「……だな」
背後で、ヴァルドが歩き出す音がする。
「出発するぞ」
「日が暮れる前には村に着きたい」
こうして俺たちは――
ギルドと一緒に、村へ戻ることになった。
街道を外れ、村へ続く土の道に入る。
先頭を歩くのはヴァルド。
足取りは重くもなく、軽くもない。
経験の塊みたいな背中だった。
その少し後ろを、俺とリュカ。
さらに後ろから、エリオが気楽な声を投げてくる。
「いやー、しかしさ」
「村案件って、だいたい平和なのに当たらないよね」
「当たりって何よ」
リュカが即座に返す。
「外れって言うと角立つから」
「平和そうに見えて、だいたい面倒」
エリオは笑いながら、俺を見る。
「君たち、普段は何してるの?」
「薬草採取です」
「地味!」
即答だった。
「でも、毎日森に入ってるってことでしょ?」
「……まあ」
「それ、普通に度胸あるよ」
「俺だったら、報酬低いって理由で断る」
褒められているのか、けなされているのか分からない。
ヴァルドが、前を向いたまま言った。
「慣れは判断を鈍らせる」
「だが、逃げずに続けているのは事実だ」
短い言葉だったが、妙に重い。
リュカがちらっと俺を見る。
「ほら、評価された」
「評価ってほどでも……」
「謙遜が板についてるな」
エリオが笑う。
「村育ちって感じ」
道の脇に、森が近づいてくる。
空気が、少しだけ変わった。
エリオが口調を落とす。
「……この辺から?」
「はい」
ヴァルドが足を止め、地面を一瞥する。
「……なるほどな」
それだけで、何かを察したらしい。
俺の胸元が、微かに熱を帯びた。
(やめろって……)
ノートは、今のところ静かだった。
リュカが、小さく息を吐く。
「ねえ」
「このまま、何もなければいいんだけど」
エリオが軽く手を振る。
「それ言うと、だいたい何か起きるやつ」
「やめて」
ヴァルドが、低く言う。
「起きるかどうかは、これからだ」
「だが――」
一瞬、言葉を切る。
「すでに“痕跡”は、十分すぎるほどある」
村は、もうすぐそこだった。




