【9話】街は想像以上にデカかった
門は、思ったよりも大きかった。
石造りで、背の高い見張り台。
人の出入りが絶えず、声と足音が混じり合っている。
「……人、多いな」
「言ったでしょ」
門番とのやり取りは、驚くほどあっさりだった。
「街で問題起こすなよ」
「起こしません」
それだけで、門は開いた。
「……拍子抜けだ」
「村みたいに、一人ひとりに対応するほど暇じゃないの」
その言葉が、妙に胸に残る。
街は、迷路だった。
露店、酒場、工房。鎧姿の冒険者が普通に歩いている。
(……俺、ここだと本当に“ただの人”だな)
良いのか悪いのか、まだ分からない。
安宿を見つけ、部屋を取る。
「一泊、二人でこの値段」
「高っ」
「街だから」
荷物を置いた瞬間、疲れが一気に出た。
「……なあ」
俺は椅子に座りながら言う。
「まだ何も始まってない気がする」
「始まる前が、いちばん静かなの」
リュカは窓の外を見ていた。
その時、胸元がじんわり温かくなる。
(来るな)
ノートを出すと、白紙のままなのに、“見ている”感じだけは、確かにあった。
夕方
「……ご飯の前に、ちょっと寄りたいところがある」
リュカが言う。
「まさか」
「そのまさか」
通りを一本曲がると、建物が見えた。
石造り。
剣と盾を模した看板。
――冒険者ギルド。
「……近くで見ると、圧あるな」
「怖いなら、入らなきゃいい」
中は、想像よりも騒がしかった。
掲示板に群がる冒険者。
受付で揉める二人組。
酒の匂い。
(……場違い感、すごい)
俺は無意識に、リュカの後ろに立っていた。
受付の女性が、ちらっとこちらを見る。
「登録?」
「いいえ」
リュカが即答する。
「村で起きている異変を調査してほしくて」
「少し状況を教えてもらえますか?」
リュカが村で起きたことをざっくり説明し、詳しいことは明日、改めて話すことになった。
「あ、あと!掲示板も見てもいいですか?」
「ご自由に」
「ありがとうございます」
それだけだった。
誰も、俺を見ていない。問い詰めもしない。
「……拍子抜け」
「だね」
掲示板には、依頼が並んでいた。
採取。
護衛。
討伐。
どれも、まだ遠い。
ギルドを出ると、空は茜色だった。
「どう?」
リュカが聞く。
「怖くなった?」
「……少し」
「正常」
通りの先から、香ばしい匂いが漂ってくる。
「とりあえず」
リュカが言う。
「ご飯にしよ」
「賛成」
歩きながら、俺は思う。
ギルドは近い。でも、まだ遠い。
今は――
“見られていない”だけだ。
ノートは静かだ。
今は、何も書かない。
まるで。
「名乗るのは、もう少し後だ」そう言っているみたいだった。
落ちこぼれは、まだ名乗らない。
だが――
世界の入口には、確かに立っていた。




