よん、
少ーし多めです。
ガンダルビダも拾われっ子だという話を聞いたのはいつだったか。
村長の息子だからこんな感じなのかな、と正直思っていたところはあったから驚いた。
しかし、気になったのは、テシャに黙っていたことと、全くそんな素振りがなかったことだ。
彼が自分の生まれを全く気にしていないからかもしれないが、もう一つの可能性として、気にする素振りも他人に見せたくなかったからかもしれないからだ。
だれだって、自分がどこから来たのか気になるものだ。
それがわからないとき、周りと違うとき、足から伸びる根がすっかすかの心持ちになるのだ。
ガンダルビダがどう感じているかは、長年一緒にいてもちっともわからないが、そういう気持ちだけはちょっぴりテシャにもわかる。
テシャには拙い話を聞いてくれる優しい養い親もいたし、気のいい動物たち、テシャを引っ張ってくれるガンダルビダもいた。この旅路で、彼らの存在が心の支えになっていたと本当の意味で気づいた。
ガンダルビダにももちろん大切な存在はいるだろう。村長は実の子同然に、彼の破天荒さを豪快に笑い飛ばすかげんこつを食らわせるかしていた。彼の勝ち気な妹も、兄との言い合いで弁舌の鞭を振るっていた。つまり、ガンダルビダに遠慮する者は村にはいなかった。
でも、心の内を伝えられていたかというのは、また別の問題だと思うのだ。
ガンダルビダの生まれの話を聞いてからというもの、もやもや渦巻いていたテシャの心配はいやな形で実現してしまった。
「勇者様は頂にて魔王の生けにえになるのです」
勇者一行から追放されたテシャは、ついでに同じく追放された囚人の連れたちを連れてとぼとぼ来た道を戻っていた。
食べ物がないから、探し集めながらの旅はのろのろしていた。なにより、テシャがしょげていたから、全体の足取りを重くしていたのは間違いない。行きの旅路できのこ採りのついでに見つけた卵を、両腕でぎゅっと抱えてしょんぼり歩くばかり。
そんなこんなで、三日かけて叫びの森に入ったところで、この白魔法使いが待ち構えていた。そして、二重線で自分の名前を消された場面を思い出して固くなった彼に、とんでもない秘密を明かしたのだ。
テシャは突然の事実に地面がぐにゃりとして立ってられなくなった。
震えわななく唇をなんとか動かし、ガンダルビダは知っているのかと聞いたと思う。
白魔法使いはてきぱき答えた。
そのことは王より直接うかがっており勇者も承知の上だ、と。
勇者一行の連れが解放囚人だったわけ。
黒の手枷の一斉発動の意味。
なんてことない疑問の答えが示されてゆく。
きっとガンダルビダは行きの旅路のうちに覚悟を決めていたのだ。
テシャに言わなかったのは覚悟を揺らがされたくなかったからか。決めたことは譲りたくない、そこはやっぱりガンダルビダなのだ。
すべてを背負って一人で立ち向かおうとしているのだ。
でも、王に自分が犠牲になることを反抗しなかったのは。
邪魔されたくなかったのに、テシャを目的地寸前まで連れていこうとしたのは。
テシャの頭の中はぐるぐる回る。
ちなみにその間中、白魔法使いはテシャの卵に視線を注いでいた。
珍しくも興味をもったみたいだが、それもそのはず、その卵はテシャほどの大男が一抱えほどするほどの大きさ、しかもひび割れのようなところに金色の筋が入っている。一目で風変わりだとわかる代物だ。
ガンダルビダは、卵はすでに割れていて中身は空だろうと高をくくっていたが、案外重い。お腹をすかせた旅人たちには、中身はどんな素晴らしいごちそうが詰まっているのかと、想像させてしまうらしい。囚人たちには幾度ともなく狙われるのが困ったものだった。
テシャは卵をもっとぎゅっと抱きしめた。
もっと珍しいことに、白魔法使いがはっと息を詰めたのだが、テシャは気づきもしなかった。
最後に別れたときのガンダルビダの言葉を思い出したのだ。
除名処分を告げてから、呆然と立ちつくしていた自分に、ガンダルビダは小さく言い添えていた。
一足先に村へ帰ってくれ、村を頼む、と。
振り返らない背中に打ちのめされて、あの言葉はあまりに悲壮な顔をしていただろうテシャを気遣った言葉なのだろうと考えていた。
ガンダルビダはわかっていたのだ、自分が村に帰れず、もう村のみんなに頼られることもできないと。
「さて、どうしますか」
白魔法使いは相変わらず涼しい顔をしている。
テシャの心はいまだうだうだ迷いがあったが、したいことは決まっていた。
「ガンダルビダのところへいく」
腕に覚えのある歴戦の戦士なら、魔王を勇者と絶対倒して生けにえなんてさせないと闘志を燃やすだろう。
知恵を働かせる賢者の仲間なら、生けにえがどうして必要なのか調べあげて、なくとも魔王をどうにかできる方法に頭を捻るだろう。
権力をもつ王様だったら、もしかしたらどうにかする方法をみんなに呼びかけて相談していたかもしれない。
テシャにはなにもない。
力も、知恵も、みんなを動かす力も。
もとより、ガンダルビダの決めたことをじゃましたいとも全く思わない。
でも、ガンダルビダの大事な場面に友のそばにいないといけない。
そして、彼が一言でもいやだと言ったらその意思を助けたい。
言葉に出してみると、自然と覚悟が決まる。
テシャの目が、顔が金色に輝いた。
「では、角笛を吹くとよい」
金の筋から目が痛むくらいの光が漏れ出して、卵の殻が一気に四散する。
卵から現れた老いたドラゴンは、本当は黄金のドラゴンらしい。卵の殻を使って封印されていたから、力も出ないし体の色もなんだか黄色だと嘆いていた。
テシャには身に覚えがなかったが、封印を解く手伝いをしてくれた恩を返すと同行してくれることになった。
そして、彼の助言のまま、村に住む以前から首に下げていた、白くとがった首飾りを吹いてみると、あっという間に音色に惹かれた種族や動物が集まってきた。
ドラゴンと魔法の角笛のおかげで、ゆっくり三日かけた道程も、不休で一日とかからずに来れた。
いよいよぶっ刺し棘山である。
ここは、岩でできた人間大の棘が次々と生えてくる魔所である。ところどころ、実のなる低木がこんもり茂っており、そこには岩の棘は生えない。木の生えているところまで棘をやっつけながら進み、休んで、また木の生えているところまで棘をやっつけて、の繰り返し。行列には向かない。
テシャは角笛をしっかり首にかけ直し、ありがとうと呟いてひと撫でした。
息を大きく吸って、背中の大斧をぶんと回し、棘を数本切り倒す。次に、切り倒した棘が生えてこないうちに上を飛び移り、新しい棘を切り倒してまた、飛び移った。
通るものがあると、上まで際限なく伸びてくる意地悪な棘だから、ドラゴンも白魔法使いも他のものももうついては来ないだろう。
ありがたいことに、ドラゴンの魔法で体はまだ元気いっぱいだ。
一人ででも、行くのだ。
気合を入れつつ、テシャはもう少しで木の実の域まで達しようとしていた。そこで、体がつまみあげられた。
巌の巨人である。なにやら、口をもごもごと動かしている。
見ると、巌の巨人たちはあちこちの棘の先端をぽきりぽきり折っては味見しており、すごく満足そうにのんびり歩いている。
さらに後ろを見ると、不死鳥は棘と棘の隙間を鳥の形になり、時には炎の塊となり、器用に飛翔している。さらに後ろでは、リュドンの精たちが、棘と棘を自分の木の腕をぐんと伸ばしてぐるぐるつないで、他のものたちのための橋をつくって進んでいた。
あれほどついてくるのを嫌がっていた囚人たちも、黙って行列の流れに乗って進み続けている。
テシャの胸が熱くなる。
みんな、無の頂で見届けようとしてくれているのだ。
テシャはまた、同じように行列の先頭を率いて巌の巨人と一緒に意気揚々と頂を目指す。
「よん。」となりませんでした。
次、無の頂にて最終回。




