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五枚目

「いたたたたた……」

「祐輝様、明様、大丈夫ですか?」

「ゴリラの奴、いまどき竹刀で生徒を叩くか?」

 真っ赤にはれた背中をさすりながら、僕たちは帰路についた。六時間目をまたいでいるのにまだ痛いとは、恐るべし、ゴリラ。さすがにハムエがゴリラにたたかれて無事なわけがないので、僕と明で必死にかばってよけいなダメージを食らった。

「すみません、私のために」

 俺の肩の上でハムエが心配そうに言う。普通に歩かせると踏まれたりしそうなので肩にのっけて来たんだけど、そこで喋られると息が耳にかかってくすぐったい。

「ハムエは悪くないよ」

「そーそー、悪いのはゴリラ!」

 というか、五時間目のことをずっと忘れて話し込んでた僕たちが悪いんじゃないの。

「ところで明。藤棚ベーカリーって防犯カメラ付いてる?」

「付いてるけどそれが……ってまさか!」

 さすが明。察しがいい。

「ああ。お前の朝飯に回ってきたってことは、ハムエはとりあえず丸一日店頭にあったってことだろ?」

 前に世間話で愚痴ってたよな。「焼きたては店に置くから結局売れ残ったパンしか食べさせてもらえない」って。

「だったらさ、その間に誰かが店の食パンをすり替えたってことじゃないか。それが誰かを調べれば、ハムエの正体がわかるかも知れない!」

「私の正体、ですか?」

「ああ、いや……ハムエもいつまでも自分が正体不明のままじゃ、やっぱり嫌だろ」

「祐輝様、ワタクシのためにそこまで……ありがとうございます!」

 ハムエがオーバーに喜ぶのを見て、僕は軽い罪悪感を覚える。ハムエが生物兵器かもしれないって、疑ってることになるんだよね。やっぱり。

「でも、カメラのデータなんか勝手に持ち出したら、母ちゃんになんて言われるか」

「なんだよ、すり替えたってことは、犯人はお前の店のパンを万引きしたかもしれないってことだろ」

「それは許せねえ! 絶対にとっちめる!」

 だいぶ規模が小さくなったけど、明を乗せるためならしょうがない。こいつはどうでもいいことのほうが燃えるタイプの男だ。

「そうか、頼んだ」

「ああ。何とか母ちゃん説得して、防犯カメラのデータ調べたらお前に結果メールする」

「頼んだよ」

 とか言ってるうちに、明の家の前に来た。

「じゃな」

「ちょっと待て。僕の肩にハムエが乗ったままなんだけど」

 僕はとっとと家に戻ろうとする明の肩をがしっとつかんだ。

「あ、ハムエはお前にやる。試供品。お持ち帰りどうぞ」

「試供品って、お前」

 いや、ほかにもツッコミどころはいっぱいあるけど、どこからツッコめばいいんだろ。

「ハムエもそっちのほうがいいだろ?」

「はいっ」

 肩の上でハムエが軽く飛び上がる。

「じゃー後でメール入れるわ!」

 僕の返事も聞かず、明は家の中に入って行ってしまった。僕がしばらく茫然としていると、ハムエが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「祐輝様、ワタクシ、もしかしてお邪魔でしたか?」

「いや、そうじゃなくて、なんだろう。一瞬違和感がしたんだ。何だろう、何かが矛盾しているような」

「それは、私を愛する気持ちと、私とはまだ出会ったばかりという事実が矛盾しているということですか? 感激ですっ」

「ハハハ……」

 笑ってごまかしたが、僕が言いたいのはそんなことじゃない。なんだろう。具体的に何かはわからないけど、もっと決定的な――。


そろそろカンのいい人なら真犯人に気付いたはずだ←

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