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2 会社からの解放

「本当に申し訳ない。ドラゴンに気を取られていて坊やのこと忘れていた。」


「いえ、大丈夫です...」


二階に案内され、エルフのお姉さんは暖かいお茶を淹れてくれた。


渡されたお茶を一口飲むと、独特の苦みとほのかに甘みを感じた。仕事を徹夜で終わらせるために最近はコーヒーしか飲んでいなかったが、俺が一番好きだった飲み物は緑茶だった。このお茶はそれによく似ている。


ふと涙がこぼれた。今までの地獄のような生活から解放された喜びなのか、故郷に帰れない、家族にもう会えないという孤独感からなのか分からなかったが。ただただ涙があふれてくる。エルフのお姉さんはお茶を飲みながら、俺が落ち着くのを黙って待っていてくれた。




「...すいません。落ち着きました」


「そうかい。それじゃあ、色々聞かせてもらおうか。坊やの家はどこだ?それと両親は?」


「家も両親もたぶんもういません、」


「なるほど。まぁ、いろいろ事情はあるだろう。行く当てがないならここに泊ってもいいが、さっきも見たようにここは5,6才の子どもがいるべきところではない。」


「そ、それでも大丈夫です!」


ドラゴンは怖いし、それ以外のモンスターも出るかもしれない...しかし、変に動くよりもこのお姉さんの近くにいた方が安全だ。たぶん


おそらくここは俺が元いた世界じゃない。異世界ってやつだ。ここには会社もないし、上司もいない。来てしまったなら楽しまなきゃ損だ!


「よし、家事くらいは手伝ってもらうからな。」


「はい!」


「自己紹介がまだだったな。私はソフカ。ここで画材屋をしている。」


画材屋...確かに一階のスペースには、何種類もの筆や鮮やかな色の小石が詰まった瓶、何に使うのか分からない道具までたくさんの物が置かれていた。


「俺は(おさむ)です。よろしくお願いします!」


こうして俺の異世界生活が始まった。





「ふあぁ...おはよう、オサム。朝ごはん出来てるか?」


「おはようございます。もう昼ご飯の時間ですけど」


あれから約三か月。わかったことがある。このソフカさん、家事が絶望的にできない...


服はしわくちゃ、料理は味付けなしの焼肉、掃除なんてもってのほか。家事ができないといったが、正確にはやろうとしない。興味の無いものに対して無頓着すぎるのだ。結果的に家事のほとんどが俺の担当になっていた。


「ん~!オサムの作る料理は美味い!子どもとは思えんな!」


「調味料使えばこれくらい誰でも作れますよ。あっ、洗濯物まとめといてくださいね。今日洗いにいきますよ。」


もちろん洗濯機なんてものはなく、川で洗うのが基本だ。しかし、一人で川に行くのは危険なのでソフカさん同行で週に一回まとめて洗っている。


店から数十分歩いたところに川が見えてくる。子どもの体で山道を進むのは大変だが、社畜だったころに比べたら何倍もマシだ。


青々とした木々を通り抜けて透き通った日の光が水面に反射し、影になった部分には魚が見える。穏やかな川のせせらぎと草木が揺れる音、小鳥のさえずりが絶え間なく響いている。緩やかな時間の流れがこの世界に来てよかったと思わせてくれる。


川で洗濯をしている最中、ソフカさんは常に何かをスケッチしている。魔法を見たのはドラゴンを追い払ったときの一度しかないが、あのスケッチも動いたり飛び出したりするのだろうか。


「ソフカさーん!自分の下着くらい自分で洗ってください!!」


「...」


ダメだ、集中しすぎて聞こえてない。


ガサガサッ


背後から鹿の親子が現れ、俺の隣で水を飲み始めた。不思議なことにソフカさんの周りにはよく動物が集まってくる。といっても集まるのはウサギや鹿や鳥。今のところ獰猛な生き物には出会ったことはない。小鳥や小動物に囲まれているソフカさんは、その風貌も相まってどこぞのプリンセスのようだ。


今日もまた俺が洗濯を終えるまでスケッチを続けていた。


行きと帰りの道では、ソフカさんが森のことを教えてくれる。食べられるキノコや薬になる草から、あらゆる動物のことまで。森のことは何でも知り尽くしていた。そんなこんなで、俺は今の生活に段々馴染みつつあった。


「そういえばオサム。明日一日留守番できるか?」


「え、一人ですか...?」


「不安かい?」


「しょ、正直不安です、」


今までモンスターに出会ったことはないとはいえ、この前見たいにドラゴンでも来たら...


「安心しろ。客なんてめったに来ない。」


「いや、そこじゃなくてですね...もしモンスターとか出てきたら、」


「あぁ、なるほど。それも大丈夫だ。あの家には結界が張ってある。この前ドラゴンが来ただろう?あいつは馬鹿だがなかなかに強い。あいつ以上に強いモンスターなんてこの森にはいないし、あそこは私の縄張りだと大抵の奴らは覚えてるからな。」


ソフカさんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど...いや、逆に考えよう。明日は一人でのびのびと過ごせるんだ!


「わかりました!留守番は任せてください!」


明日は一日好きなことをして過ごそう!

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