第99話 狂気と混沌の塔
数分後、ワゴン車は朽津間ビルに到着した。
無茶な増築で肥大化した外観に統一感はなく、混沌と狂気をありありと醸し出している。
ハンドルを握る高瀬は、驚いた様子でビルを見上げた。
「わっ、大きいですね……」
「七年前より改築が進んでいるようです」
「アップデートか。面白いじゃねえか」
不敵に笑う沢田は、札束に挟まれていたメモ用紙をつまみ取った。
記された一文を読み返し、彼は顎を撫でて疑問を呈する。
「今さらだが地下25階ってどういうことだ?」
「誤植……ではないでしょうし、そのままの意味だと思います」
「だとすれば単純計算でスペースが倍増しているじゃねえか。一体どうやって改築したんだか」
「地下がゴールなら地上階を探索する意味はなさそうですね」
「いや、分かんねえぞ。地上階からじゃねえと行けない構造かもしれん」
「確かに。思い込みは危険ですね」
沢田と上原のやり取りを聞いていた高瀬は、興奮して二人を称賛する。
「お二人ともすごいです! 場慣れした感じがすごくかっこいいですね!」
「そりゃ三十年もいたからな。癖は抜けねえよ」
「誇るべきことではないですけどね」
上原は苦笑するも、彼女の眼差しはビルに近づくほど鋭くなり、纏う気配も洗練されていく。
それに気付いた高瀬はますます目を輝かせた。
間もなくワゴン車はビルのそばに停まった。
ゴルフバッグを重たそうに担いだ沢田は、念押しで高瀬に忠告する。
「とにかく死ぬなよ。温泉旅館に行くんだからな!」
「もちろんです! 旅行も楽しみなので必ず生き残ります!」
一行はビル内へと踏み込む。
荒れ果てたエントランスホールに入った瞬間、突き当たりのエレベーターが開く。
そこから出てきたのは大量の殺人鬼だった。
「おっ、おお!」
「獲物! 新しい獲物っ!」
「殺せ殺せ!」
凶器を携えた殺人鬼達は、我先にと押し合いながら迫ってくる。
沢田はゴルフバッグに手を突っ込み、中からドラムマガジンを搭載したマシンガンを掴み取った。
彼はぎらついた顔で銃口を殺人鬼に向ける。
「殲滅するぞ」
「はい」
応じた上原は、バイオリンケースからフルオート式の散弾銃を取り出していた。
二人はすぐさま銃撃を開始した。
無慈悲に放たれた銃弾は、殺人鬼達を真正面から引き裂いた。
悲鳴が上がり、肉片や脳漿が飛び散り、血と臓物と硝煙の臭いが鼻腔にこびりついてくる。
穴だらけになって沈む殺人鬼を見て、沢田と上原はここぞとばかりに大笑いした。
「はっはっは! やっぱり朽津間ビルは最高だなァッ!」
「はい、先生!」
高瀬とパンチは少し後ろで一方的な虐殺を見学する。
二人の背中を見ていた高瀬は「えっ」と驚く。
彼の目は、探偵と助手の若々しい姿を幻視していた。




