第95話 唐突な宣言
沢田が瓦礫を掴み、イリエを殴り付ける。
そのまま撲殺する勢いだったが、腹部に鋭い痛みを覚えて固まった。
見れば腹にカッターナイフが突き刺さっている。
イリエが苦し紛れに反撃したのだった。
その瞬間、沢田は目を剥いてイリエの首を絞める。
「この野郎!」
「……っ」
激しく揺さぶられたイリエは、間もなく白目を剥いて気絶する。
沢田はカッターナイフを引き抜いて捨てて吼えた。
イリエにとどめを刺そうか考えた後、何もせずに立ち上がる。
彼は上原に声をかけた。
「よう、平気か……?」
「先生こそ大丈夫なんですかそれ」
「クソ痛えよ」
沢田は傷口を押さえる。
滲み出す血液がコートを濡らしていた。
舌打ちした沢田は、苦痛を堪えて部屋の奥を注視する。
コレクターの横に葛城が立っていた。
無傷の彼女は、涼しい笑みを浮かべて沢田と上原を傍観している。
沢田は怒りを隠さず問いかけた。
「おい。殺し合いが見れて満足か?」
「まあね。悪くない」
「お前はどうする。俺達の邪魔をするなら殺すが」
「どっちだと思うかね?」
「分からねえから殺す」
殺気を膨らませた沢田は、早足で葛城に接近する。
ぽんっ、と空気の抜ける音がした。
コレクターの義手から転がり出た手榴弾が、両者の間で止まる。
刹那、沢田は上原を掴んで退避した。
「伏せろっ!」
手榴弾の爆発が部屋全体を吹き飛ばした。
半壊した部屋に白煙が充満する。
咄嗟に上原を庇った沢田は、背中に鉄片が突き刺さっていた。
新たな負傷に沢田は渋い顔で唸る。
「チッ、ふざけやがって」
「あ、ありがとうございます、先生……」
「そんなことより周りの警戒だ」
沢田は満身創痍の身体で辺りを見回す。
イリエは気絶したままだった。
横たわっていたことで、幸運にも爆発の被害を受けていない。
コレクターの死体は、至近距離で爆発を浴びて著しく破損していた。
前面が焼け焦げて無数の破片が貫いている。
もはや原形は残っておらず、人相も分からなくなっていた。
死体の陰から無傷の葛城が顔を出した。
彼女は気さくな態度で笑う。
「あっという間に三人になってしまったね」
「すぐ二人になるけどな」
迫り来る沢田に対し、葛城は両手を挙げて応じた。
彼女はあっさりと宣言する。
「参った。朽津間ビルの管理者は私が引き継ごう」




