第93話 殺意の層
過去の顛末を語り終えた上原は、胸に手を当てて述べる。
「そうして私は、朽津間ビルの管理者を現在に至るまで務めてきました」
「なぜ、その間に会いに来なかったんだ……管理者の権限があれば難しくねえだろうが」
沢田が指摘すると、上原は目を伏せて答えた。
「私は会いに行きましたよ。でも先生は記憶喪失で、私が誰かも分からず殺そうとしてきました」
「何……!?」
「先生は二十五階に固執していました。だからまたこのビルを上がり切った時、元通りになると信じて待っていたんです……予想通りでしたね」
「上原……」
沢田は返す言葉もなく佇む。
そんな彼に葛城が補足説明をした。
「ちなみに沢田君を治療したのは私だよ。最上階から落下した君は一命を取り留めたが、脳のダメージで記憶喪失になってしまった。そしてビルで死にかけるたびに症状が悪化し、意思疎通すら困難な状態になったわけだね」
「お前……すべて知った上で黙っていやがったのか」
沢田が問い詰めるも、葛城は涼しい顔で受け流す。
彼女は当然のように応じた。
「律儀に明かす義理もないからね。それに、因縁は己の手で解決すべきだろう」
「……確かにそうだな」
一方、松本は上原の前に立って尋ねた。
「親父は、化け物になってあんたらを救ったのか」
「はい。松本さん……あなたのお父さんは命の恩人です。ここ十年ほどは自我を失い、ナラクとして暴走していましたので、息子さんに終わらせてもらえて安心していると思います」
「……そうか」
その時、イリエが納得した様子の松本を突き飛ばした。
彼女は凄まじい剣幕で上原を怒鳴る。
「ふざけないでよ! いい話で終わるわけないでしょ!」
イリエは隠し持っていたカッターナイフを上原に突き付けた。
切っ先が上原の喉に添えられる。
「――私はあんたを殺す」
「やらせねえよ。まあ、俺は殺すが」
カッターナイフを掴んで止めた沢田が、ぎろりとコレクターを睨む。
コレクターは困った顔で肩をすくめた。
続けてマナカとヒヨリが、ニヤニヤしながら武器を取り出す。
それぞれ拳銃と警棒を持って提案する。
「昔話とかどうでもいいし、そろそろ殺し合おうよ」
「うんうん」
二人の前に松本が立ちはだかる。
彼は拳を固く握り締めて宣言した。
「俺は……親父が守ったもんを守り抜く」
「へえ、かっこいいねー」
「死んだらダサいけど」
葛城は嘆息し、首をゆるゆると振った。
彼女はメスを手に取って苦笑する。
「やれやれ、結局こうなるのか」
「朽津間ビルにふさわしい決戦じゃないですか」
上原がそう言った後、場に奇妙な静寂が流れる。
互いの殺意が交錯して際限なく膨れ上がる。
それが最高潮に達した瞬間、殺し合いが勃発した。




