第92話 残酷な要求
沢田は大きく息を吐いて脱力する。
「よく分からんが助かったな。松本の野郎……何があったんだろうな。何はともあれ、脱出するなら今のうちだ」
「それは困ります」
響き渡る一発の銃声。
沢田は自身の腹部に赤い染みを認める。
染みはじわじわと広がり、続けて痛みも強まってきた。
傷口を押さえた沢田は唸る。
「て、てめぇ……ッ」
拳銃を構えているのはコレクターだった。
彼は澄まし顔で沢田に歩み寄る。
「松本さんはもう助けに来ませんよ。痩せ我慢していましたが、かなり無理をしていらっしゃったようですから」
コレクターが沢田を突き飛ばす。
よろめいた沢田は、崩れた壁からビルの外へ倒れた。
彼はなんとか縁に掴まって落下は免れるも、その指をコレクターが踏み付ける。
「粘らないでくださいよ」
「何してんだ、この野郎……!」
「これも必要な行為なのですよ。ご理解ください」
「畜生、てめぇはいつか絶対に殺――」
会話の途中、コレクターが沢田の指をまとめて踏み折る。
沢田は叫び声を上げて落下していった。
突然の事態に呆然としていた上原が、血相を変えて壁際まで走る。
「先生っ!」
落下した沢田が、外壁の凹凸にぶつかりながら落ちていく。
飛び散る鮮血を目撃し、上原はショックで固まってしまった。
「ああ……そんな……」
「動かないでくださいね」
上原の後頭部にコレクターが銃口を当てる。
彼は片手で携帯電話を操作し、誰かと話し始めた。
「はい……ええ、それで大丈夫です……細かい部分は葛城さんにお任せします。生きていれば問題ないです」
通話を終えたコレクターは、銃を構えたまま上原に説明する。
「このビルの医者……朽津間クリニックに連絡しました。沢田さんはまず助かるでしょう」
「ど、どうしてこんなことを……」
「あなたに管理者の業務を全うしていただくためです」
コレクターは穏やかに答える。
まるで世間話を楽しんでいるような姿が、却って彼の狂気を際立たせていた。
「上原さん。あなたが朽津間ビルの管理を断れば、沢田さんの治療を止めてもらいます。選択してください」
「そんなの、決まってるじゃないですか……!」
「ええ、知っています。だからご自身の口でお答えください」
要求を受けた上原は涙を流す。
迷いなどなかった。
最初から選択肢など存在しなかったのだ。
上原は黙って頷くしかなかった。




