第85話 失ったもの
狂気に包まれた二十四階は、バズーカ砲の爆発で半壊した。
巻き込まれた住民は大半が即死し、運悪く死ねなかった者は満身創痍で苦悶する。
至近距離で砲撃を食らったナラクも例外ではなく、絶叫しながらのたうち回っていた。
鎧のように全身を包んでいた手足は何十本も焼け落ちて、焦げた胴体が見え隠れしている。
相当なダメージだったのか、ナラクは一時的に行動不能に陥っていた。
そんな中、死体を押し退けてヒヨリが起き上がる。
煤で汚れた彼女は、欠損した右腕を見て「あーあ」と呟く。
さほど動揺せず、ヒヨリは立ち上がった。
左足が折れて骨が飛び出しているものの、特に痛がることなく歩き出す。
死体からツルハシを奪い、杖代わりにして進む。
間もなくヒヨリは何かを発見し、控えめな声で呼びかけた。
「おーい、生きてる?」
目を開けて跳ね起きたのはマナカだった。
全身に火傷を負って、左腕が消し飛んでいるものの、その笑顔は健在である。
瞬きの後、マナカはヒヨリに勢いよく抱き着いた。
「ヒヨリ! 無事だったんだぁ!」
「無事じゃない。片腕ないもん」
「生きてるなら全然オッケーでしょ!」
「確かに」
マナカは拳銃を拾うと、互いの傷を見て苦笑する。
「あはは、派手にやられちゃったねえ」
「どうする?」
「そりゃもちろん殺すよっ!」
「やめろ。こいつは俺の獲物だ」
二人の会話を遮って、野太い声が響き渡る。
ナラクが破壊した壁の穴に、赤いスーツの大男が立っていた。
顰め面の松本は、マナカとヒヨリを冷静に注視する。
二人は頬を膨らませて抗議した。
「何? 横取りする気?」
「意地悪だ」
「違う。最初から俺が殺すつもりだった。お前らが横取りしようとしている」
一触即発の空気を破るように、今度はナラクが咆哮を轟かせた。
ナラクは残った手足を蠢かせて三人を威嚇する。
目配せしたマナカとヒヨリは、続けて松本に提案する。
「ここは共闘してみない?」
「一緒に戦おうよ」
松本はマナカとヒヨリ、そしてナラクを順に見やる。
そして、己の身体を観察した。
ビルの住人がイベントに盛り上がる中、松本は現在に至るまで単独でナラクと戦い続けていた。
疲労や傷は無視できず、スーツの赤みは彼自身の血も含まれている。
数秒にも満たない思考を経て、松本は嘆息した。
「……断りたいが、どうせ無視するんだろ。勝手にしろ」
「はいはーい!」
「了解」
三人はナラクに跳びかかった。




