第84話 躍る殺人鬼
カトウは目の前の殺し合いに唖然とする。
「すげえな。どいつもこいつも大興奮で狂ってやがる。イベントどころじゃないだろ。どうするんだ」
「その前にこれを着けたまえ」
葛城がイリエとカトウにガスマスクを渡した。
カトウは怪訝そうに訊く。
「いきなり何だよ」
「フロアに違法薬物が散布されている。これで防ぐといい」
「どうして分かった?」
「匂いでね」
「お前は着けなくていいのか」
「慣れているから問題ないのだよ」
イリエとカトウは言われた通りにガスマスクを装着した。
ゴーグルによってやや暗くなった視界の中、イリエは葛城に尋ねる。
「こんなに殺し合って住人はいなくならないんですか?」
「朽津間ビルを無法地帯の天国と思う人間は多く、放っておいてもあちこちから集まってくるのだよ。住人が少ない時期もあるが、いずれまた増える。何十年も滞在している私の経験だから信憑性は高いよ」
「お前、何歳だよ」
カトウが指摘するも、葛城は肩をすくめて苦笑した。
「女性に年齢を訊くのはマナー違反だと思うがね」
「ハッ、言ってろよ」
一方、フロア内の殺し合いにも変化が生じつつあった。
銃火器を持つマナカ、鈍器を振り回すヒヨリが他の殺人鬼を虐殺しているのだ。
二人の完璧な連携に隙はなく、徒党を組んだ住民が次々と死体となる。
マナカとヒヨリは返り血まみれで笑っていた。
「あいつら、圧倒的に強えな……」
「若いがビル内でも有名な殺人鬼だからね。半端な輩では手も足も出ないさ。このまま順調にいけば、イベント開始までに他の住民が全滅する展開に……」
その時、巨体が壁をぶち破ってフロアに転がり込んでくる。
焼け焦げた大量の手足を揺らすのは怪物ナラクだった。
ナラクは軌道上の住民を轢き潰しながら勢いよく転がっていく。
その中にはよそ見をしていたヒヨリも含まれていた。
反応が遅れたヒヨリは、避ける間もなく巨体の下敷きとなる。
相方の右腕が千切れ飛ぶ様を見た瞬間、マナカは絶叫した。
彼女はナラクに向けてありったけの銃弾を叩き込む。
ナラクは重ねた手で銃弾を遮って距離を詰めると、マナカの胴体を掴んで粉砕した。
マナカは目を口から出血するも、ニヤリと笑う。
彼女は背負っていた小型のバズーカ砲を構え、至近距離で発射する。
刹那、凄まじい爆炎と衝撃がフロア全体に拡散した。




