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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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83/100

第83話 秩序崩壊

 撮影チームの紅一点であり、現在は唯一の生き残ったメンバーのイリエは、黙々と階段を上がっていた。

 彼女の隣にはホームレスの男カトウ、朽津間クリニック院長の葛城がいる。

 カトウはイリエの握る拳銃を一瞥し、それから声をかけた。


「なあ」


「何ですか」


「ビルの管理者に復讐する気だろ」


 カトウの問いかけにイリエは唇を噛む。

 彼女はゆっくりと頷き、己の心境を正直に吐露した。


「そう、ですね……アサバとナベを殺されたので、その仕返しをしたいです。ここの管理者が元凶だと思うので」


「成功するか分からんぞ」


「分かってます。でも二人のためにもやり遂げるつもりです」


 イリエの双眸は覚悟の強さを物語っていた。

 憎悪とまではいかないものの、まだ見ぬ管理者への殺意に満ちている。

 復讐するのが当然である、と彼女は結論付けていた。


 イリエの気持ちを知った葛城は、拍手をして賞賛する。


「素晴らしい動機じゃないか。私は応援しているよ」


「あ、ありがとうございます」


「お前は楽しんでいるだけだろ」


「どうだろうね」


 カトウに指摘に対し、葛城は涼しい笑みを浮かべるだけだった。


 移動中、三人を襲う者はいない。

 そもそもどこのフロアももぬけの殻だった。

 代わりに上階から絶えず銃声と爆発音が響いてくる。


 カトウは指で耳をほじってぼやく。


「安全すぎると却って不気味だな」


「移動が楽でいいじゃないか。皆、スペシャルイベントに釣られて二十四階に集まっているようだね」


「まだ始まってもいねえのにお祭り騒ぎだがな」


「待ち切れなかったらしいね」


 二十三階に辿り着いた時、イリエは強烈な血の臭いを嗅ぎ取った。

 周囲には死体がちらほらと転がっている。

 カトウは死体からライフル銃を拝借し、弾の確認しつつ笑った。


「へへっ、派手にやってるじゃねえか」


「おや。嬉しそうだね」


「暗い顔してても得しねえだろ。だったら開き直って楽しむ方がいい」


「なるほど、ポジティブな狂気だ」


 死体で埋まった階段を這い上がり、三人は二十四階のフロアを慎重に覗き込む。


 そこでは数百人の人間が壮絶な殺し合いを繰り広げていた。

 鈍器や刃物、銃器、或いは素手で見境なく攻撃している。

 あちこちで爆発が起きて、火だるまになって走り回る者もいた。

 辛うじて保たれていたビルの秩序は、完全に崩壊していた。

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