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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第80話 選択の余地なし

 射殺された古賀を前に、沢田は拳銃を引き抜いた。

 銃口を田宮に向けて彼は言う。


「おいてめえ……何してんだ」


「古賀さんの役目はもう終わりました。だから死んでいただきました」


 散弾銃を持つ田宮はあっさりと答えた。

 罪悪感のない様子で彼は頭を下げる。


「沢田さん、すみません。私、嘘をついていました」


「嘘?」


「私は元ヤクザではありません。本当は元サラリーマンで、今は朽津間ビルの管理者です」


 田宮の告白に、上原が驚愕した。

 彼女は震えながら指を差す。


「まさか……私のお父さん……?」


「上原! お父さんってどういうことだよ!」


「つまり彼は管理者であり、上原さんのお父さんです」


 コレクターが会話に割り込んで補足する。

 刹那、沢田の拳銃がコレクターに向けられた。


「冗談にしても笑えねえぞ。空気読めよ」


「事実ですよ。まあ、我ながら父を名乗る資格はありませんがね」


 田宮が困り顔で述べる。

 突き付けられた拳銃にも臆せず、コレクターは淡々と説明した。


「田宮さんは身分を隠し、朽津間ビルの改善箇所を探すのが趣味です。自殺目的でビルにやってきたのが三十年前。そこで奥さんと出会って結ばれたんですよね」


「よくそこまでご存じで」


「しっかり調べましたので! 価値のある情報は商品になりますからね」


 他人の個人情報を明かしたコレクターは悪びれもせずに言う。

 沢田は拳銃の狙いを田宮に戻して尋ねた。


「何が目的だ」


「娘に後継者にしたい。妻が娘を外に逃がしたから、探して招待したのですよ。ほら、あなたの事務所に送った手紙と現金です」


「お前の仕業だったのか……」


 沢田は百万円の入った封筒を思い出す。

 田宮は苦笑いを浮かべて語った。


「あそこまで簡単に引っかかってくれるとは思いませんでしたけどね。娘の面倒を見てくださったことには感謝していますが、いささか軽率すぎるのでは?」


「……ッ!」


 沢田が怒りに任せて引き金を引く寸前、田宮が散弾銃を構えた。

 そして「動かないでくださいね」と忠告する。

 相手の言葉が本気だと感じ取った沢田は、悔しげに発砲を断念した。


 満足した田宮は上原に話しかける。


「私は末期癌で半年も生きられない。お前にすべてを渡したい」


「い、嫌……」


 上原は目に涙を滲ませて拒絶する。

 田宮は苦笑し、携帯電話を取り出した。


「突然のことだから理解できないだろうね。自由意思を尊重したかったが、そうも言っていられないな」


 田宮は携帯電話を操作し、折り畳んでポケットに入れる。

 彼は優しい眼差しで上原に告げた。


「五分後にビルは爆発する。阻止するには、二十五階のパソコンから管理者権限を使うしかない。死にたくなければ、お前が後継者になるしかないんだ」


 言い終えた直後、田宮は散弾銃を口にくわえる。

 彼は爪先で引き金を踏んで発砲した。

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