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第8話 行方不明

「ねえ、こんな所入りたくないんだけど……」


「どうせモザイクだらけだろうし、ここから撮って終わりでいいだろ」


「やった!」


 ナベの判断にイリエが喜ぶ。

 ところがその時、カトウが大声で喚きながら走り出した。

 彼は悪臭に満ちた部屋に飛び込むと、生ゴミを蹴散らして突き進む。

 そのまま奥にある扉から別の部屋へ移動してしまった。


 一部始終を目にしたナベは呆れる。


「なんだあれ。おかしくなってやんの」


「もう放っておこうよ……」


「そうだな。動画のネタになると思ったけど面倒臭えや」


「……じゃあ俺が連れ戻す」


 話に割り込んだアサバが、二人を押し退けて部屋の前に立つ。

 ナベは皮肉を込めて言った。


「へえ、年寄りには優しくってか」


「俺がオッサンを引っ張ってきた。その責任を取るだけだ。動画に出演させたら面白いと思ったが、ここに放置するのは違うだろ」


「……偽善者め」


「そうそう、自己満足の偽善だ。それでいいよ」


 開き直ったアサバはさっさと部屋に入った。

 服の袖で鼻と口を押さえつつ、消えたカトウに呼びかける。


「おーい、オッサン。あんま遠くに行くなよー」


 ゆっくりと進むアサバは、カトウを追って隣の部屋へと消えた。

 その背中を見届けたナベは、屈み込んで舌打ちする。


「あいつ、空気読めねえよな。俺達と同じクズのくせに」


「根は優しいんじゃない? 知らないけど」


「ふん……」


 不貞腐れたように言う二人だったが、アサバの悲鳴が聞こえてきたことで顔色を変えた。

 部屋の奥から激しい物音が響いてくる。

 ナベが慌てて声を上げた。


「アサバ! どうしたっ!?」


 返事はない。

 物音も止まって静寂が戻ってきた。


 ナベは何度か躊躇し、意を決して部屋に入る。

 彼はアサバが消えた扉の先へと向かった。

 イリエも顔を歪めてついていく。


 扉の先は掃除用具が放り出された小部屋だった。

 他に出口がないにも関わらず、カトウとアサバの姿はない。

 録画中のカメラだけが床に落ちていた。


「は……? どこに行ったんだ……」


 ナベは壁に開いた大きな穴に注目する。

 穴には新しい血痕が付着していた。

 息を呑んだナベは、乾いた笑いを洩らす。


「はっ、ははは……良い演出じゃん。あいつ、意外と気が利くんだな」


「ねえ……これってヤラセだよね。マジじゃないよね?」


「ヤラセに決まってんだろ! アサバの奴がアドリブで――」


 ナベの言葉を遮るように、壁の中から悲鳴が発せられる。

 それはアサバの声だった。

 顔面蒼白のイリエは耳を塞いで「ひっ」と怯える。

 悲鳴を聞いて放心するナベだったが、やがて彼は決心した。


「……企画変更だ。追いかけるぞ」


「えっ、嫌……」


「じゃあ車に戻ってろよ! その代わり今回のギャラはゼロだからなッ!」


 イリエに車のキーを投げ渡したナベは、カメラを持って壁の穴に潜り込む。

 彼はよじ登るようにして姿を消した。


 残されたイリエは泣きながら狼狽える。

 悩んだ末、彼女は小部屋を出てビルの外へと逃げた。


 数分後、小部屋の端で生ゴミの山が蠢く。

 そこから現れたのはカトウだった。

 カトウはよろめきながら立ち上がると、来た道を壁伝いに戻り始める。


「……にじゅうご……かい……」


 カトウが導かれるように向かった先は、エレベーターのそばにある階段だった。

 深呼吸をした後、カトウは一歩ずつ上がり始めた。

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