第78話 必要な手
古賀が扉の端末を指差して上原を促す。
「ここに指を当てるんだ」
「……えっと」
「どうしたんだい。早くしな」
急かされる上原は暗い面持ちで後ずさる。
彼女は己の心境を吐露した。
「私なんかが管理者になれるんですかね……あと、この先に父親がいると思ったら怖くて……」
「なるほど、そういうことかい」
古賀が大げさにため息を吐く。
次の瞬間、彼女は上原に鋭いビンタを見舞った。
乾いた音に衝撃が伴い、上原はびっくりした様子で古賀を見る。
「えっ……」
「舐めたことを言うんじゃないよ。こっちは数十年越しの悲願なんだ。端からあんたに選択権なんて無いんだよ」
古賀が上原の胸倉を掴んで凄む。
彼女の双眸にはどす黒い殺意が込められていた。
「ここまで大勢が犠牲になっているんだ。あんたを管理者に仕立てるためにね。その努力を無駄にするつもりかい」
「ひっ」
上原は古賀を突き飛ばし、反射的に逃げ出した。
通路を引き返すも、即座に追いつかれて床に引き倒される。
暴れる上原を押さえ付けながら、古賀は失望を露わに宣告した。
「手荒な真似はしたくなかったんだがね。あんたがそういう態度を取るなら、こっちも容赦しないよ」
古賀は近くに飾ってあった大型のナイフを持った。
それを上原の右手首にそっと当てる。
「指紋をね、認証できればそれでいいんだ。だったら手だけで十分なんだよ」
「ど、どうしてですか! 今まで助けてくれたのにっ!」
「あんたを死なせずに新しい管理者として利用するのが合理的だからね。だがまあ、逆らうなら仕方ないと思っただけさ。アタシは短気だからね。面倒なことは嫌いなのさ」
古賀がナイフに力を込めようとしたその時、銃声が鳴り響く。
ナイフを握る古賀の指が何本か弾け飛んだ。
彼女は顔を顰めて銃声の出所を睨む。
通路の絵画の一枚が外れて、そこから沢田が身を乗り出していた。
彼の手には、発砲したばかりの拳銃が握られている。
「上原! 大丈夫か!」
「先生っ!」
絵画裏のスペースから這い出てきた沢田は、拳銃からポンプ式の散弾銃に持ち替えて撃つ。
古賀は素早く屈んで躱すと、凄まじいスピードで沢田との距離を詰めた。
そこから渾身の打撃を繰り出す。
唸りを上げる拳が沢田の胸部にめり込んだ。
肋骨を砕かれる衝撃に、彼は目を見開いて血を噴く。
しかしそれでも怯むことなく、沢田は散弾銃を撃った。
散弾は古賀の右目から側頭部にかけてを容赦なく耕した。




