第77話 扉
信者が数人がかりで男をリンチする。
指で眼球を抉られたり、刃物で腹部を切り裂かれている者もいた。
奪った銃を掲げる信者は、何事かを喚きながら乱射する。
味方に当たろうがお構いなしだった。
混沌とした状況の中、上原を担いだ古賀が疾走する。
すぐさま信者が押し寄せるも、鋭い打撃で首の骨を砕かれて沈んでいく。
飛び散った血が顔にかかり、上原が声を上げた。
「うわっ!?」
「死にたくなかったら、じっとしてな!」
年齢を一切感じさせない速度で古賀は駆ける。
振り返った彼女は、仲間の男達に命令を飛ばした。
「このまま道を戻って時間稼ぎだ! 死ぬんじゃないよ!」
「りょ、了解っ!」
「まったく、簡単に言ってくれるぜ……!」
「生き延びて酒飲むぞォッ!」
奮起した男達は信者を振り払い、全速力で逃げ始めた。
信者は半狂乱になって追いかける。
わざと騒ぎ立てる男達に気を取られたせいで、古賀と上原に注目する者はいなかった。
その間に古賀はフロアの奥にある通路に辿り着く。
古賀は通路の入り口を閉めて施錠する。
誰も侵入できないようにしたところで、彼女はようやく上原を降ろした。
「重いよ。もっとダイエットしな」
「す、すみません……」
謝る上原は通路を見渡す。
幅三メートル、長さ十メートルほどのそこには、無数の絵画が並べられていた。
ベッドや本棚といった生活用品の他に、水や保存食も置かれている。
「ここは野村の私室だよ。最上階に近い場所を独占したかったんだろうね。つまらない男だ。昔はあんなんじゃなかったんだが……」
「仲が良かったんですか?」
「一緒にビルで暮らしてた仲だよ。あんたの母親が死んだ時、狂って宗教を始めたんだ。精神的に限界だったんだろうね」
「…………」
通路の奥には、豪勢に飾り立てられた扉があった。
その扉こそ、二十五階に繋がる道だった。
「この扉は指紋認証でしか開かないんだ。登録されてある指紋は管理者とその娘だけ……つまりあんたには管理者の資格があるってわけさ」
「私だけ……」
「どうして娘の指紋まで登録したのかは知らないがね。いずれ継がせるつもりだったのかもしれないね」
古賀は顎を撫でつつ推察する。
上原は複雑な表情で自分の指を見つめた。
まだ見ぬ父親に対し、彼女は得体のしれない不安と恐怖を抱いた。




