第72話 コレクター
沢田は眼鏡の男にレンチを向ける。
「誰だ」
「お初にお目にかかります! わたくし"コレクター"と申しまして、この朽津間ビルで商いをしております!」
「商いだと……?」
顔を歪めた沢田は、田宮に目で問う。
田宮は控えめな口調で説明した。
「か、彼は殺人鬼の遺品を愛する収集家です。コレクションに見合う物を渡すと、対価として物資や情報、人材を提供してくれます」
「そんな変人までいるのか……」
「いやはや、お恥ずかしい限りでございます!」
コレクターを名乗る男は、嬉々として前に進み出る。
レンチを向けられた状態でも平然と全身を晒してみせた。
沢田は微塵も油断せず、いつでも攻撃できるように意識して尋ねる。
「それで変態野郎が何の用だ」
「ヨネさんの刀を譲っていただきたいのです。わたくしのような人種にとっては喉から手が出る逸品でして」
「見返りはあるんだろうな?」
「もちろんでございます! あなたの要望に可能な範疇で応えましょう!」
コレクターは胸を張って宣言でした。
沢田はまっすぐな瞳で述べる。
「じゃあ俺の助手……上原の居場所を知りたい。情報を寄越せ」
「ええ、いいですよ!」
「は……?」
「あなたがビルに入ってきた際、一緒にいた女性の方ですよね。位置情報は概ね把握しております!」
コレクターは「こちらへどうぞ!」と言って勝手に歩き始めた。
沢田はついていくか迷った後、舌打ちして彼の後を追う。
田宮はヨネの刀を拾ってから追従した。
移動中、沢田は険しい表情を崩さず、コレクターの背中を睨みつけていた。
その様子に田宮が不安そうに訊く。
「どうしました……?」
「話がスムーズに進みすぎだ。どう考えても怪しすぎるだろ。そもそも上原の居場所をなぜ知っている。俺達を騙す罠か、それともあいつ自身が上原を……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
殺気立つ沢田を慌てて田宮が止めた。
沢田は乱暴に制止を振り払う。
「何だよ」
「コレクターは嘘が大嫌いなんです! 彼はビル内でも中立的な立場で、率先的に危害を加えるタイプではありません」
「だからと言って、上原の居場所を知ってるのはおかしいだろ」
「か、彼の情報網は一流です……それでチェックしていたのかと」
田宮の推測を聞いた沢田は唸る。
彼なりに説明を吟味し、どうすべきか判断に悩んでいるようだった。
「とにかく、ここは穏便にいきましょう……! コレクターの協力が得られるのは貴重なのでっ!」
「……分かった。我慢する」
沢田は渋々と頷く。
一連のやり取りを聞いていたコレクターは、髪の分け目をなぞって笑った。




