第70話 妖刀老婆
沢田と田宮は朽津間ビルの中層を彷徨っていた。
フロアを一階ずつ調べて回り、行方不明の上原を捜索している。
沢田が古びた扉を開けると、レンチを持った殺人鬼が襲いかかってきた。
殺人鬼は問答無用でレンチを振るう。
沢田は僅かな動作で躱し、相手に鉈を叩き付けた。
血塗れの刃が殺人鬼の首筋にめり込み、引き抜かれる。
頸動脈が裂けたことで鮮血が噴き、殺人鬼はあえなく倒れた。
沢田は慣れた手つきで死体の持ち物を漁る。
レンチとポケットナイフを拝借した後、彼は田宮に文句を言った。
「おい。変な連中ばっかで上原がいねえじゃねえか」
「す、すみません……でもこのビルで人探しって本当に難しくて……」
田宮は怯えた顔で弁明する。
自身が焦りから八つ当たりをしていると気付いた沢田は、ばつが悪そうに舌打ちした。
(クソ、上原を早く見つけねえと……)
その時、近くの階段から数人の男が駆け下りてきた。
彼らは沢田達を目にした途端、泣き笑いのような表情で走り寄ってくる。
沢田は億劫な様子で鉈を握った。
「ったく、またか。面倒臭えな……」
ところが次の瞬間、男達の首がまとめて飛んだ。
首を失った死体がばたばたと一斉に転倒する。
死体の背後に立つのは、刀を持つ傷だらけの老婆だった。
全身は焼け爛れ、衣服も焦げている。
顔面には金歯と銀歯が刺さっており、右目に至っては完全に潰れていた。
沢田は眉間に皺を寄せて老婆に注目する。
「なんだこの婆さん」
「ひ、人斬りのヨネさんです……まずいです……この人、すごく強くて――」
田宮が答える途中、ヨネが疾走する。
素早い動きで距離を詰めると、刀で二人に斬りかかる。
「うおっ!?」
沢田は反射的に鉈で斬撃を弾いた。
衝撃で鉈の刃が半ばほどで折れて飛んでいく。
続けてヨネが放った刺突は、沢田の肩を僅かに抉った。
満身創痍で狙いが鈍ったその一撃は、もし万全な状態ならば心臓を捉えていただろう。
(ふざけんな! 勝てるわけねえ!)
そう悟った沢田は、田宮の袖を掴んで後方へ逃げ出した。
部屋から部屋へと行き止まりを避けて移動していく。
ヨネは壁や床を滅茶苦茶に切り裂きながら二人を追跡した。
絶えず鳴り響く破壊音に、沢田は堪らず大声を出す。
「おい! バケモノじゃねえか! どうすんだ!?」
「とっ、とにかく逃げましょう! 普通に戦っても勝ち目はないのでっ!」
横殴りの刀が沢田と田宮の頭頂部すれすれを通過する。
振り抜かれた刀は、窓を覆う鉄板を紙のように切断してみせる。
その凄まじい斬撃に沢田は戦慄した。




