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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第69話 仄暗い目標

 カトウは嘆息し、ガリガリと頭を掻いた。

 彼は疲れ切った表情でぼやく。


「最上階を目指すのは後回しだな。巻き込まれたくねえから、イベントはパスでいいや」


「君は参加すべきだと思うがね」


 葛城が凛とした声で告げる。

 ピクリと反応したカトウは、剣呑な様子で尋ねた。


「理由は?」


「記憶喪失に関係ある……かもしれない」


「曖昧な表現だな。そんなんで騙されるかよ」


「嘘と判断してもいいがね。君は己の答えを知るチャンスを失うかもしれない」


 葛城は試すような眼差しで笑う。

 カトウは彼女の額に散弾銃を押し付けた。

 その体勢で淡々と問う。


「……どうしても俺を厄介事に混ぜたいらしいな。何が目的だ」


「君の抱える疾患を適切に治したいだけだよ。私は医者なのでね」


「ハッ、胡散臭え女だ」


 カトウが引き金に指をあける。

 葛城は動揺せず、ただ静かに微笑むだけだった。

 やがてカトウは「弾の無駄だ」と言って銃を下ろす。

 彼は片脚を引きずりながら荷物をまとめ始めた。


「仕方ねえ、お前の企みに乗ってやるよ。俺の邪魔をする奴は皆殺しだ」


「素晴らしい心がけだね。応援しているよ」


「うっせえな」


 悪態をつくカトウをよそに、葛城は嬉しそうだった。

 彼女は少し張り切った雰囲気で立ち上がる。


「さて、私も行くとしようか」


「は? なんでだよ」


「イベントの報酬が欲しいからね。慢性的に物資が不足する朽津間において、こういう催しは貴重なのさ」


 葛城はイリエの手を握り、優しく提案した。


「というわけで予定変更だ。君もイベントに参加しよう」


「えっ」


「別に断ってもいいがね。君一人で地上階まで戻るのは厳しいのではないかな」


 葛城は緩やかに小首を傾げる。


 次々と展開する事態に、イリエの頭はパンク寸前だった。

 彼女は目を閉じて暫し唸る。

 たっぷり三十秒ほど考え込んだ後、イリエは吹っ切れた顔で苦笑いを浮かべた。


「こうなったら最後まで見届けますよ」


「良いじゃないか」


「後悔しても知らねえぞ」


 イリエは出発の準備を始めた。

 荷物を背負い、靴紐を結び直し、手には自動拳銃を握る。

 自動拳銃はクリニック内にあったもので、葛城から友好の印として譲ってもらったものだった。

 使い方をレクチャーされながら、イリエはアサバとナベの顔を思い出す。


(……ちゃんと仇を取ってあげるからね)


 昏い決意を胸に、イリエは拳銃を強く握った。

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