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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第66話 答えは最上階に

 イリエは傷の処置を開始した。

 まず全身各所をゆっくりと動かし、大きな支障がないことを確かめる。

 傷口に消毒液をかけつつ、イリエは感心した。


(骨は折れてなさそう……私って悪運が強いんだな)


 彼女が包帯を巻いていると、マナカがヒヨリがそばに座った。

 二人は無言でじっとイリエを見つめてくる。

 視線が気になったイリエは、勇気を出して話しかけた。


「な、何」


「名前教えてよ」


「教えてよ」


 突然の要求にイリエは戸惑う。

 しかし逆らうのは悪手を考え、彼女は慎重に答えた。


「えっ……イリエだけど……」


「うちはマナカ」


「あたしはヒヨリ」


 それぞれ名乗った後、マナカが質問をした。


「イリエちゃんもこのビルに住む?」


「楽しいよ」


「弱いのに生き残ってるし、たぶん素質あるよ」


「うんうん」


「さすがに嫌かも……」


 二人の勧誘をイリエはやんわりと断る。

 その後、彼女は自身の治療を無事に完了した。

 ところが何を思ったのか、マナカとヒヨリにガーゼ越しに傷口をぺたぺたと触り出す。


「もう平気?」


「治った?」


「傷は痛むけど、少しマシになったかな」


「ふーん」


「お大事にね」


 イリエが気まずさを覚えていると、葛城が丸椅子に座ったまま滑ってきた。

 後ろから顰め面のカトウもついてくる。


「こっちも話がまとまったよ」


「俺の過去は聞き出さないことにした。どうしても口を割る気がねえみたいだからな」


「話したところで君に余計な混乱をもたらし、覚悟を鈍らせるだけなのでね」


 葛城は意味深にウインクする。

 カトウの眉間の皺が一層深まるも、彼女は気にせず話し続けた。


「覚悟……強迫観念と称してもいい。とにかく君の衝動の理由は、二十五階に辿り着けば判明する」


「嘘だったら承知しねえぞ」


「大丈夫。君ならきっと真実を見つけるだろう」


 葛城は自信満々に断言する。

 カトウは小声でぼやくも、それ以上は追及しなかった。

 彼は腹を押さえながらベッドに寝転び、さっさとカーテンを閉める。

 自分の治療の順番が来るまで仮眠を取るようだ。


 カトウの背中を見届けたイリエは、ふと疑問に思う。


(一体何者なんだろう……ただのホームレスじゃないのはもう分かったけど。少なくともビルの住人なのは確かで……)


 考察を進めるイリエをよそに、葛城はマナカとヒヨリに話を振った。


「さて、君達の処置が途中だったね。再開しよう」


「やったー! 改造でパワーアップするぞー!」


「かっこよくしてね」


「任せたまえ。最高の状態に仕上げてみせるさ」


 マナカとヒヨリは元気よくハイタッチをする。

 葛城はメスとハサミを持って微笑した。

 唯一、イリエだけがその様子を気の毒そうに眺めていた。


(改造されるのに喜んでる……)


 彼女は少し心配になるも、余計な発言で巻き込まれたくないので黙ることにした。

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