表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/100

第63話 焼却処理

 ナベが握り潰され、肉片と金属部品がばら撒かれる。

 友人の壮絶な死を目にしたイリエは腰を抜かしてしまった。


「ひっ」


 声に反応したナラクがイリエに注目する。

 ナラクは足元の死体を踏みながら迫り、太い腕で彼女を捕まえた。

 圧迫によって骨が軋み、イリエは声を上げる。


「うっ、あ……ああっ……!」


 彼女の肉体が砕かれる寸前、頭上から茶色い濁った液体が大量に垂れて落ちてきた。

 液体に濡れたナラクの手が滑り、イリエは地面に落下して逃れる。

 無我夢中で距離を取りつつ、彼女は異臭に気付いた。


(何これ……)


 彼女は視線を上に向けて、未だ垂れてくる液体の発生源を突き止める。

 吹き抜けの穴の縁に松本が立っていた。

 全身血だらけの松本は、ポリタンクを傾けて液体を下の階へ流している。

 空になった容器を捨てて、次々と同じ作業を繰り返していた。


 イリエは松本の行動の意味を察してぎょっとする。


(まさかガソリンとか灯油……?)


 松本が燃える新聞紙を放り投げた。

 新聞紙は火の粉を散らし、ひらひらと揺れながら落下し始める。


 液体塗れの身体を見たイリエは、全力で走り出した。


「わっ、わわ! ちょっと! 待って!?」


 イリエは死体と瓦礫をよじ登って越えると、壁際に放置された浴槽へと向かう。

 そこには破裂した水道管から噴き出す水が溜まっていた。


 彼女が錆色の水に飛び込んだ瞬間、新聞紙から液体へ引火した炎がフロア全体に広がる。

 一瞬で全身が燃えたナラクは、絶叫してのたうち回る。

 やがて巨体を振り乱して、壁や天井を粉砕しながらどこかへと走り去っていった。

 上階から成果を確かめた松本も無言で立ち去る。


 炎と黒煙が充満するフロアで、ずぶ濡れのイリエだけが取り残されていた。


「これから、どうしたら……」


 浴槽から出たイリエは途方に暮れる。

 ひとまず焼死や一酸化炭素中毒が怖かったので、彼女は近くの階段で下のフロアへ避難した。

 丸腰で疲労困憊のイリエは、あまりのも隙だらけだった。

 しかしナラクの襲来と火災が重なり、付近に彼女を襲う住人はいない。

 奇跡的に安全な状況だが、イリエの心境は決して明るくなかった。


(ナベも死んじゃったし、最上階に行く意味もないよ。もう何もいらないから、生きて脱出したい……)


 身体の痛みに顔を顰めつつ、イリエはひたすら階段を下りる。

 希望のない足取りは、これまで以上に重たかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ