第62話 感動的な告白
イリエとナベは全速力で廊下を走る。
背後から接近するナラクが咆哮を上げた。
響き渡る声に二人は動転する。
「ど、どうするのこれっ!?」
「知るか! とにかく逃げるしかねえ!」
二人は上り階段を発見するも、そこは密集する住人で埋まっていた。
我先にと逃げようとする者が押し合って進めなくなっている。
躊躇うイリエとナベだったが、意を決してその中に飛び込んだ。
彼らはなんとか次の階を目指すものの、押し返されてなかなか上がることができない。
踊り場まで来た段階で端に追いやられてしまった。
「くそ! 全然進まねえぞ!」
「ねえ、早くしないとまずいよ!」
「駄目だ、引き返せッ!」
来た道を戻ろうとしたナベは、跳びかかってくるナラクを目撃した。
ナラクが住人を押し潰しながら階段に着地する。
その瞬間、重量に耐え切れなかった階段に亀裂が走り、一気に崩壊した。
巻き込まれたイリエは落下中に気を失う。
次に彼女が目覚めたのは、全身の痛みが原因だった。
一帯に土煙が舞い上がる中、イリエはどうにか起き上がって状況を確認する。
イリエの手足には痣や細かい切り傷が付いていた。
軽い出血もあるが、動けないほどではない。
彼女の足元は死体で埋め尽くされていた。
同じく崩壊に巻き込まれたビルの住人である。
彼らがクッションになったことで、イリエは軽傷で済んだのだった。
イリエは頭上を確認する。
天井はなく、崩落した穴が吹き抜けのように開いていた。
目視できる範囲で、少なくとも三階分は落下したようだった。
(これで大した怪我じゃなかったのはラッキーかも)
けたたましい銃声にイリエは驚く。
少し離れた場所で、ナベが怪物ナラクと戦っていた。
ナベは肩の機関銃で絶え間なく攻撃している。
対するナラクは銃撃を受けながらも突進し、無数の手で彼を殴り飛ばす。
倒れたナベは機関銃を撃とうとするも、弾が出てこない。
弾切れか、或いは故障か。
彼が次の武装に切り替える前に、ナラクから二本の逞しい太い腕が生えた。
腕がナベの胴体を掴み、圧倒的な握力で砕く。
上を向いたナベが噴水のように吐血した。
絶望的な光景にイリエが呼びかける。
「ナベ! 待ってて、すぐ助けるから!」
「無理だ! もう手遅れだから一人で逃げてくれっ!」
掴まれたままのナベが大声で応じる。
彼は口端から血を垂らしながらも笑顔を作った。
「お、俺は大丈夫っ! 先生の手術で痛覚が麻痺してるんだ! 全然、苦しくないんだ! はははっ!」
「ナベ……」
「ほんと、色々ごめん! こんな所、来なきゃ、よかったよな! うん、後悔してる! ごめんな!」
「き、気にしないで! 私こそちゃんと止めなくてごめん!」
イリエは涙を流して謝る。
彼女の顔を見たナベは、晴れやかな笑みで告白した。
「実は、お前のこと好きだった! 付き合いたかったけど言えなかったんだ! だから、飲み会でイリエが酔い潰れた時、こっそり胸とか尻を揉んでた! キスもしたし、それでも起きないから――」
ナラクの握力が一気に強まり、ナベが爆散した。




