第60話 暗がりの目
三人は手作りのエレベーターに乗った。
大柄な松本がいるせいで必然的に窮屈となり、ナベは手すりを掴んで呻く。
「せ、狭い」
「我慢しろ。すぐに着く」
松本がボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと上昇を始めた。
次の階からは周りが筒状の鉄板に囲われており、外からの攻撃が届かないようになっている。
イリエは落ち着きない様子で言う。
「途中の階には止まらないんですね」
「利便性を犠牲に、安全性を優先したのだろう。それでも破壊するのは簡単な設計だが」
「確かにすぐ壊せそうです……ん?」
イリエはエレベーターの支柱に書かれたメモに気付いた。
そこには蛍光ペンで「19⇔23」と記されている。
彼女はすぐに意味を理解した。
(二十三階への直通エレベーターなんだ……)
イリエはふと視線を感じ、反射的に見上げる。
隙間だらけの天井の奥、上階へと続く闇の中で目が光っていた。
微かな息遣いと共に、生物の大きな輪郭が蠢く。
視線越しに燻ぶるような殺気を浴びたイリエは尻餅をついた。
「ひっ」
「どうした!?」
「な、何かいる……」
顔面蒼白のイリエが光る目を指差す。
ナベは胸部に付いた蓋を開き、搭載されたライトで照らし上げた。
エレベーターの行く手を阻むように、無数の人間の手で覆われた怪物がへばりついていた。
怪物の下部からは大量の脚が生えており、それらを壁に密着させて突っ張る形で三人を待ち構えている。
手の隙間から覗く目が、ぎょろりと動いた。
想像を絶する光景にナベは驚く。
「うおっ、バケモノ!?」
手の怪物が落下し、エレベーターにしがみ付いた。
衝撃でエレベーターが傾いて停止する。
作動中の滑車とワイヤーが悲鳴を上げていた。
重量オーバーで上昇できないどころか、僅かに下降しつつある。
その瞬間、ナベが怒鳴って肩の機関銃を向けた。
「ふっざけんじゃ、ねえッ!」
機関銃が火を噴き、至近距離から怪物に銃弾を浴びせる。
貫かれた手から鮮血が迸り、真下にいた三人に降り注いだ。
銃撃で怪物が怯んだ隙に、松本は筒状の壁を殴りつける。
強烈な拳の連打が壁を歪めて穴を開ける。
そこから松本は外に抜け出してフロアに着地した。
「来い!」
「は、はいっ!」
イリエとナベも急いで脱出した。
ほぼ同時にエレベーターが落下し、凄まじい衝突音と爆発が階下で轟いた。




