表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

第6話 削除シーン

 ナベが後部座席のアサバに目配せする。

 頷いたアサバは、カメラに映る位置にカトウを引っ張り出した。


「ちなみに今回はゲストがいます! 人喰いビルの専門家、カトウさんでーす」


「うあ……ああ……」


「カトウさん。よろしくお願いします!」


「う、くっ……」


 カトウは会話に応じず、ただ静かに啜り泣く。

 その途端、ナベは真顔で録画を止めた。

 彼はハンドルを叩いて悪態をつく。


「こいつに喋らせるのは無理だな。くそ、面倒臭えな」


「どうする。捨てるか?」


「いや、連れて行く。鬱陶しいけどムードは作れそうだ。会話できねえのは編集でどうにかする。後付けでなんとかなるだろ」


 ナベは何度か舌打ちした後、アサバに指示を出した。


「それじゃ、次はビルに到着するところで撮影再開な。それまでオッサンは黙らせとけ」


「おう、任せてくれよ」


 アサバはガムテープでカトウの口を塞ぐ。

 カトウがくぐもった唸り声を発するも、スマートフォンから流れる音楽がそれを掻き消した。


 数分後、四人を乗せた車は、獣道を抜けて少し開けた場所に出た。

 鉄板に覆われた朽津間ビルが中央にそびえ立っている。

 ナベはカメラをアサバに渡して命じた。


「おい、早く回せ」


 アサバはカメラを車外に向けて録画を始める。

 咳払いをしたナベは元気よく発言した。


「皆さん、いよいよ見えてきましたよ。あれが人喰いビルです!」


「な、なんだか……すごく不気味……」


「寒気がするな」


 イリエとアサバがそれぞれコメントを述べる。

 二人の反応に満足したナベは、予め考えていたセリフを言おうとする。

 その時、突如としてカトウが口のゴムテープを剥がし、手足を振り回して暴れ出した。

 彼は凄まじい金切り声を上げる。


「うああああああああっ! ひっ、ひいいいいいああああああああっ!?」


 後ろから座席を蹴られたナベは急ブレーキを踏んだ。

 振り返った彼は、カトウの顔面に拳を叩き込んで怒鳴る。


「うるせえッ!」


 殴られたカトウはひっくり返った。

 鼻血が溢れてブルーシートに垂れ落ちる。

 カトウは髪を掻き毟り、掠れた声で唸り続けた。


 その様子にアサバは顔を引き攣らせる。


「お、おい……ナベ……さすがにやりすぎじゃ……」


「いいんだよ。俺をイラつかせた罰だ」


 ナベは平然と前に向き直ってアクセルを踏む。

 その際に「ここのシーンはカットな」と呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ