表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/100

第59話 執着と狂気

 ナベが雄叫びを上げて突進する。

 そこには包丁を構える男が待ち構えていた。


「うおおおおぉぉぉっ! これでも食らえ!」


 ナベの拳が包丁を砕き、男の顔面を叩き潰す。

 改造を施された彼の肉体は、人間の発揮可能な馬力を逸脱していた。

 遠くから放たれた弾丸が命中するも、全身各所を覆う厚い金属装甲で弾く。


「はははっ、効かねえよ! 葛城先生の治療を舐めんじゃねえ!」


 ナベは射手に近寄って殴り殺す。

 血だらけの拳を掲げて、彼は意気揚々と叫んだ。


「俺はッ! 無敵だァ!」


 ナベはモーター音を鳴らして各部屋を探索し、手当たり次第に住人を虐殺する。

 一部始終を眺めるイリエは、困り顔で隣の松本に話しかけた。


「なんか、すごいですね……本当に無敵っぽいというか……」


「無茶な戦い方だがな。このままだと最上階まで持たない」


「えっ、じゃあ止めた方がいいですよね」


「あれは止まらんだろ。好き勝手に暴れさせておけ。その分、俺達は楽できる」


 イリエと松本は、死体だらけの廊下を進む。

 突き当たりの壁まで来たところで、手作りのエレベーターを発見した。

 床と天井に穴を開けて設けられたそれは、ワイヤーと滑車で上下の階に移動できるようになっている。

 あまりにも簡素で粗末な構造だが、一応は使える状態だった。


 松本はボタンを押してエレベーターの足場を呼ぶ。


「ビル内にはいくつもの移動手段がある。手作りのエレベーターもその一つだ。すぐに破壊されるせいで、まともに稼働しているのは珍しいがな」


「破壊は分かります。でも、誰が修理してるんですか?」


「知らん。機械点検が生き甲斐の住人でもいるんだろう」


「点検が生き甲斐……?」


 イリエは戸惑う。

 松本は足場の固定具合を確かめながら説明を続けた。


「闘争、殺人、人体改造、自由、商売、収集、カニバリズム……このビルには様々な欲求を抱く人間が集う。狂気じみた執着に憑かれた者だけが生き延びる環境だ」


「な、なるほど……?」


 イリエは曖昧な相槌を打つ。

 欲求や執着について、あまり共感できなかったのだ。


(私の欲……ここから無事に生き残ることくらいかなぁ。どんどん脱出から遠ざかってるけど)


 ため息を洩らすイリエの足元に、人間の生首が転がってくる。

 間もなく返り血まみれのナベが戻ってきた。

 彼は頭部のない死体を引きずって自慢げに笑う。


「この階の敵は全滅させたぞ! 残ってた奴らも逃げたんだ! 圧勝だったな!」


「あ、ありがとう……強いね」


「そりゃ葛城のおかげだ! もう負ける気がしねえもん。たぶん松本さんにも勝てるぜ」


「そうか」


 興味がない松本は、エレベーターの足場に乗る。

 イリエは不安そうに尋ねた。


「これで上に進みますか?」


「途中の階を飛ばせるのは良いが危険だ。待ち伏せのリスクがある」


 松本は頭上を注視して答える。

 彼の手は、いつ敵が現れても対処できるよう固く握り込まれていた。


 イリエと松本が判断の迷う中、ナベがここぞとばかりに挙手する。


「行きましょうよ! 何か出てきても俺が倒すんで!」


「……後悔するなよ」


 議論が面倒になった松本は、ナベの意見を採用する。

 彼自身、細かいことを考えるのは苦手だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ