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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第58話 男の矜持

 一つ下のフロアに着いた工藤は、前方に集まるビルの住人を発見する。

 住人は生焼けの死体を切り分けて食事をしているところだった。

 工藤は手を振って彼らに駆け寄る。


「おっす! ちょうどいいところにいるじゃないか! バトンタッチしてくれ!」


 住人は工藤を睨んで怪訝そうにする。

 その後、猛スピードで接近するヨネに気付いて大慌てで逃げた。

 工藤、出遅れた一人を掴み、親しげに話しかける。


「おいおい、待ってくれよ。寂しいだろ?」


「ふっ、ふざけんな! よりによって人斬りを連れてくるなんて――」


「おっと、やべぇ」


 工藤は頭を下げて転がる。

 背後から襲いかかった斬撃が、怒鳴った男の首を刎ねた。


 ヨネはぼんやりとした表情で匕首で斬りかかる。

 工藤はひょいと跳んで躱すと、全力疾走でフロア内を逃げた。

 運悪く巻き込まれた住人はヨネを攻撃するも、次々と斬殺されていく。


 フロア内の住人が全滅したタイミングで、工藤は下のフロアへ移動した。

 そこでも同じことを繰り返し、さらに下のフロアへと向かう。

 大量の住人を犠牲にすることで、工藤はひたすら時間を稼いだ。


 ただし、十七階の朽津間クリニックは素通りする。

 ビルの住人にとって、葛城は敵対すべきではない人間の一人として周知されていた。

 彼女を巻き込むと、予想外の報復が発生しかねないためだ。

 古賀や上原にも影響を及ぼすリスクを懸念し、工藤は別のフロアへと急ぐ。


 汗だくの工藤は、瓦礫だらけの廊下で振り返る。

 刀と匕首を打ち鳴らすヨネが立っていた。

 工藤はすぐさま近くの部屋に飛び込む。


(よし、ついてきてるな。時間稼ぎは十分。あとは……)


 工藤が入った部屋は、出入り口が一つのみだった。

 隠れられる場所もない殺風景な空間で、彼は鼻を鳴らす。


「……へっ、ここが墓場か」


 煙草をくわえた工藤は、瓦礫に腰かけて喫煙する。

 およそ十秒後、ヨネがやってきた。

 絶えず人を殺し回ったにも関わらず、息一つ切らしていない。


 工藤は服に手を差し込み、何かを漁りながら笑った。


「よう、遅かったじゃないか。待ちくたびれたぜ」


 ヨネは返答しない。

 虚ろな顔つきは、そもそも言葉を理解しているのかすら怪しかった。


 工藤は中指を立てて挑発する。


「かかってこいよ。ビビッてんのか?」


 ヨネが踏み込み、血みどろの刀を一閃させる。


 工藤の中指が切断され、彼の首に刃が滑り込んだ。

 切り離された生首が、笑ったまま床に転がる。

 倒れた身体から、着火済みのダイナマイトが転がり落ちた。

 次の瞬間、爆炎が部屋を包み込んだ。

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