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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第56話 意外な素性

 セピア色の写真を見た上原は静かに驚く。


「本当にそっくり……」


「そうだろう。初めてあんたに会った時、さすがに驚いたよ。やはり親子だね」


 古賀は遠い目をして笑う。

 写真を返した上原は尋ねた。


「母は今、どこにいるんですか」


「あんたを外に捨てた後、戻ってきて死んだよ。外で生き続ける道もあったんだが……不安だったんだろう」


「不安?」


「朽津間ビルでの生活に慣れた人間が、外の世界でやっているわけがない。そういう先入観さ。別に間違っちゃいない認識だがね。命惜しさに逃げた奴らも、だいたいがここへ戻ってくる」


 古賀は唇を僅かに噛んで言う。

 腕を組んだ工藤が、何度も頷きながら言葉を続けた。


「魚が陸では生きていけないように……環境ってのは大事なんだよなぁ」


「そういうあんたは月に何度か外で遊んでるじゃないか」


「パチンコと競馬はやめられないもんでね。あと酒……漫画の新刊も外せねえし、美味いメシも……」


 工藤は指を折って欲望を数える。

 呆れて古賀は嘆息しつつ、懐からネックレスを取り出した。

 ハート形を半分にしたものだった。


「母親の遺品だ。持っときな」


「ありがとうございます……これ、ペアネックレスですよね」


「……そうだよ。片割れはあんたの父親が持ってる」


 古賀の言葉を聞いた瞬間、上原は目を見開く。

 彼女は恐る恐る訊いた。


「父は生きていますか」


「ああ、元気さ。朽津間ビルの管理者としてね」


「管理者……?」


「そのままの意味さ。このビルの支配し、地獄のような混沌を生み出す元凶だね。最上階ですべて監視しているそうだよ」


 母親の死、そして父親の正体を知った上原は黙り込む。

 やがて彼女は一つの事実に辿り着いた。


「私を最上階に連れて行く理由って、まさか……」


「父親の代わりに、あんたを次の管理者にするためだね」


「ど、どうして私なんですか」


「あんたには、母を捨てた父に復讐する権利……そして、混沌を引き継ぐ責務がある」


 古賀が確固たる口調で告げる。

 一方で工藤は気楽な様子で補足した。


「まあ、嫌なら断ってくれてもいいぜ。その時は責任もっておいらが外まで連れ出そう」


「――工藤。あんた余計なこと言うんじゃないよ」


「いきなり復讐だとか責務だとか、結構な無茶ぶりだろ? この子にだって拒む権利はある」


「…………」


 言い返された古賀は不機嫌そうに工藤を睨みつける。

 工藤は口笛を吹いて肩をすくめてみせた。


 上原は床を見つめたまま固まる。

 驚きや疑念、悲しみに困惑……様々な感情が彼女の中で絶えず渦巻いていた。

 数分ほど逡巡した後、上原は決意した顔で口を開く。


「私は……」


 彼女が答えを出す寸前、出入り口の扉が開く。

 そこから現れたのは、セーターを着た皺だらけの老婆だった。

 骨ばった左右の手には、赤黒く錆びた刀と匕首が握られていた。

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― 新着の感想 ―
なんか嘘くさいなぁ…。
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