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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第54話 手術成功

 顔をライトで照らされて、怪物は眩しそうに目を開ける。

 メスを持った血みどろの葛城が、美しい微笑を湛えて見下ろしていた。


「お疲れ様。手術は無事に終わったよ」


「…………」


 怪物は上体を起こす。

 痛みや目まい、吐き気、倦怠感があるものの、死に瀕した手術前ほどではなかった。


 メスを置いた葛城は、満ち足りた顔で優雅に語る。


「ここまで大規模な施術は初めてだ。いやはや、良い経験をさせてもらった」


 葛城の目の前には、正真正銘の異形がいた。


 屈強な肉体は極限まで巨大化していた。

 移植された筋肉と骨が鎧のように重ねられた結果である。

 身長はほとんど変わっていないが、代わりに胴体の横幅や厚みが元の二倍以上になっていた。


 手足はそれぞれ何十本もあり、大半がぐったりと垂れ下がってグロテスクなドレスと化している。

 すべて葛城が丹精込めて繋いだものだった。


 頭部は三つある。

 通常の位置に一つ、右肩とうなじに一つずつ縫い付けられている。

 移植された二つの頭部は、うっすらと目を開けており、怪物の死角を補っていた。


 葛城は嬉々として手術に関する説明をする。


「移植部位は慣れれば動かせるようになるだろう。どの程度の筋力や精度になるかは君次第だね。ちなみに各種臓器も増やしてあるよ」


「ひど、い……す、がた、だ……な……」


 怪物がしゃがれた声を発した。

 丸椅子に腰かけた葛城は、世間話のように問う。


「気分はどうかな」


「……さい、あくだ……」


「ふむ、良いね。理性を失っていたら、そんな感想も出まい。心が生きている証拠だよ」


 ぐぷぷ、と怪物の口から音が鳴る。

 どうやら笑ったらしかった。

 怪物は嫌味を込めて言う。


「……ま……さか、おまえ、が……こころ、などと……」


「失敬な。私だって患者を励ますことくらいあるさ。君との付き合いも長いのだから尚更ね」


 葛城は紙とペンを用意した。

 そこに何かを綴りつつ、彼女は怪物に提案する。


「どうだろう。生まれ変わった記念に新しい名前を付けてみないかね」


「ふ、よう……だ……」


「まあまあ、そう言わずに。私が考えてあげよう」


 いくつかの候補を書き記した後、葛城は本命の名を決めた。

 彼女は自信に満ちた様子で発表する。


「よし、君はナラクだ」


「な……らく……」


「奈落がビルを這い上がって人々を殺す……なかなか風情あるとは思わないかね」


 葛城の言葉に怪物ナラクは答えず、静かに立ち上がった。

 ナラクは何度か壁にぶつかりながらも前進し、クリニックの出口に辿り着く。


「せ、わ……に、なっ……た」


「構わないよ。困ったらいつでも来るといい。定期検診も大歓迎だ。さらなるアップデートを加えよう」


「……そう、か」


 ナラクは何かを思案した後、前を向いて歩き出す。

 二度と振り返ることなく、怪物は姿を消した。

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