第54話 手術成功
顔をライトで照らされて、怪物は眩しそうに目を開ける。
メスを持った血みどろの葛城が、美しい微笑を湛えて見下ろしていた。
「お疲れ様。手術は無事に終わったよ」
「…………」
怪物は上体を起こす。
痛みや目まい、吐き気、倦怠感があるものの、死に瀕した手術前ほどではなかった。
メスを置いた葛城は、満ち足りた顔で優雅に語る。
「ここまで大規模な施術は初めてだ。いやはや、良い経験をさせてもらった」
葛城の目の前には、正真正銘の異形がいた。
屈強な肉体は極限まで巨大化していた。
移植された筋肉と骨が鎧のように重ねられた結果である。
身長はほとんど変わっていないが、代わりに胴体の横幅や厚みが元の二倍以上になっていた。
手足はそれぞれ何十本もあり、大半がぐったりと垂れ下がってグロテスクなドレスと化している。
すべて葛城が丹精込めて繋いだものだった。
頭部は三つある。
通常の位置に一つ、右肩とうなじに一つずつ縫い付けられている。
移植された二つの頭部は、うっすらと目を開けており、怪物の死角を補っていた。
葛城は嬉々として手術に関する説明をする。
「移植部位は慣れれば動かせるようになるだろう。どの程度の筋力や精度になるかは君次第だね。ちなみに各種臓器も増やしてあるよ」
「ひど、い……す、がた、だ……な……」
怪物がしゃがれた声を発した。
丸椅子に腰かけた葛城は、世間話のように問う。
「気分はどうかな」
「……さい、あくだ……」
「ふむ、良いね。理性を失っていたら、そんな感想も出まい。心が生きている証拠だよ」
ぐぷぷ、と怪物の口から音が鳴る。
どうやら笑ったらしかった。
怪物は嫌味を込めて言う。
「……ま……さか、おまえ、が……こころ、などと……」
「失敬な。私だって患者を励ますことくらいあるさ。君との付き合いも長いのだから尚更ね」
葛城は紙とペンを用意した。
そこに何かを綴りつつ、彼女は怪物に提案する。
「どうだろう。生まれ変わった記念に新しい名前を付けてみないかね」
「ふ、よう……だ……」
「まあまあ、そう言わずに。私が考えてあげよう」
いくつかの候補を書き記した後、葛城は本命の名を決めた。
彼女は自信に満ちた様子で発表する。
「よし、君はナラクだ」
「な……らく……」
「奈落がビルを這い上がって人々を殺す……なかなか風情あるとは思わないかね」
葛城の言葉に怪物ナラクは答えず、静かに立ち上がった。
ナラクは何度か壁にぶつかりながらも前進し、クリニックの出口に辿り着く。
「せ、わ……に、なっ……た」
「構わないよ。困ったらいつでも来るといい。定期検診も大歓迎だ。さらなるアップデートを加えよう」
「……そう、か」
ナラクは何かを思案した後、前を向いて歩き出す。
二度と振り返ることなく、怪物は姿を消した。




