第53話 急患
沢田と田宮が出発してから三十分後。
朽津間クリニックに一人の患者がやってきた。
地鳴りのような足音、入り口を破壊する轟音を聞いた葛城は、来訪者を確認しに行く。
そこには身の丈にメートルを超える怪物が佇んでいた。
無数の人間の死体をぶら下げて全身の輪郭を覆い隠し、夥しい量の血を絶えず流している。
常人なら気を失いかねない濃密な悪臭を迸らせていた。
死体の隙間から覗く目は、ぎらついた光を宿す。
異様な風貌の怪物を前にしても、葛城は気さくな態度で話しかけた。
「やあ、個性的なファッションじゃないか」
「……っ」
怪物が微かに声を発する。
耳を澄ませて聞き取った葛城は、意外そうな顔で相槌を打つ。
「なるほど。それは災難だったね。君ほどの強者でも、死ぬ時はあっけないものだ」
「……っ」
「ああ、すまない。死にたくないから受診してくれたのだね。最期の挨拶に来てくれたのだと思ったよ。君は生死に頓着ないタイプだからね」
葛城は苦笑しつつ、怪物を院内へと招く。
ゆっくりと歩く怪物は、指示をされる前に床の上に仰向けで倒れた。
手術道具を用意する葛城は、涼しい笑みを浮かべてぼやく。
「やれやれ、今日は患者が多くて忙しいよ」
「……っ」
「うん、嬉しいとも。人々の命を救うのが私の趣味だからね。今にも死にそうな君だって治すことができる」
葛城は蕩けそうな笑みで言い、ライトを怪物に当てた。
彼女は怪物に手を添えて静かに尋ねる。
「一応確認しておくが、私を頼ったということは、身体をどう弄られても許容するのだね?」
怪物は、ゆっくりと頷いた。
その目は揺るぎない強靭な意志を訴えかけていた。
怪物の答えを知った葛城は、優しい声で述べる。
「――ならば私も全力を尽くそう」
葛城は怪物に貼り付いた死体を引き剥がしていった。
死体は全身に噛み付く形でへばりついていたので、顎周りにメスを入れて分離作業を進める。
噴き出す血液で白衣を濡らしながら、葛城は地道に死体を並べていく。
彼女は美しい顔を狂気に染めて、早口で怪物に告げる。
「せっかく大量の材料があるんだ。これらを存分に活かした施術にするよ。次に目覚めた時、君は最強の存在になっているはずだ」
「…………」
怪物は一度だけ瞬きをして、天井を見る。
それから静かに目を閉じて意識を手放した。




