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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第52話 矢の男

 中年男を見た沢田は、当然の疑問を葛城に投げかける。


「誰だ」


「元ヤクザの田宮君だよ。かなりの臆病者だが、用心深く頭が回る。ビル内でもベテランの住人さ」


 田宮は会釈しながら部屋に入ってくる。

 どこか挙動不審な様子で、田宮は沢田に挨拶をした。


「あっ、ど……どうも……」


「こいつが頼もしい仲間か? 腰抜けの面倒を見るほど余裕はないんだがな」


「田宮君はビル内の探索に慣れている。力を借りるべきだと思うがね」


「…………」


 葛城の意見を聞いた沢田は、田宮をじっくりと観察する。

 視線を受けた田宮は、ぎょっとして目を逸らした。

 情けない姿に苛立ちを覚えつつも、沢田は頭を掻いて呟く。


「……ここから先、案内人は必要だな」


「その通り。朽津間ビルにおいて、情報は二番目に大切なものだ」


「じゃあ一番は何だよ」


「圧倒的な暴力だね。これに敵うものはない」


「素晴らしい正論だな、クソッタレ」


 結局、沢田は田宮を同行させることに決めた。

 田宮の知識と経験が役に立つと考えたのである。

 彼の性格や言動は性に合わなかったが、そこには目をつむることにした。


 方針を定めた沢田は、さっさと出発の準備を始めた。

 血染めの鉈を握り、トラバサミに砕かれた脚にはギプスを巻く。

 痛み止めを服用したことで、体調は改善していた。


 田宮はシャツの上にくたびれたジャケットを羽織る。

 手には小型のクロスボウを携え、矢筒を背負う。


 それらの装備に気付いた沢田が話しかける。


「矢で戦うのか」


「はい……拾って使い回せますし、銃と比べて音が出ないのが便利ですね。隠密行動に最適な武器です」


「田宮君は弓矢の扱いが上手いよ。暗闇でも音を頼りに敵を射抜けるんだ」


「ひゃ、百発百中ではないですがね……」


 田宮は照れ笑いを浮かべる。

 そんな彼の背中を叩いて沢田は告げる。


「行くぞ」


「は、はいっ!」


 出口に向かう際、沢田は葛城を見た。

 彼は淡々と別れを述べる。


「じゃあな」


「健闘を祈っているよ。もし怪我をしたら戻ってきたまえ」


「死んでもお断りだ」


 沢田と田宮は朽津間クリニックを出た。

 倒壊した上り階段には、手製の梯子が固定されている。

 ぐらつく梯子を順番に上った後、田宮は沢田に確認する。


「ええっと、どういったルートで進みましょう……?」


「なるべくすべてのフロアを入念に確認したい。上原がいるかもしれないんだ」


「捜索重視だと、かなり危険な道のりになりますが……」


「リスクは承知の上だ。先導してくれ」


 沢田の答えを聞いた田宮は、小さく頷いて歩き出した。

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