第50話 探偵の執念
中央に焚火の置かれた一室。
痩せた男が、串に刺した肉を焼いて食べていた。
男は黒く濁った酒で唇を濡らし、陰気な笑みを漏らす。
彼のそばには、鉈が刺さった死体が転がっていた。
死体は解体途中で、元の人相が分からないほど切り刻まれている。
男が新たな串を焼こうとした時、部屋の扉が開いた。
殺気を隠さず入室したのは、探偵の沢田だった。
沢田は血だらけの顔で獣のように唸る。
「上原……どこだ……」
串焼きを捨てた男が、鉈を持って斬りかかった。
沢田は拳銃を素早く発砲する。
男は腹と胸に一発ずつ弾を食らった。
ふらついて壁に激突すると、脱力してそのまま絶命する。
沢田は弾切れの拳銃を腰に差し、死体から鉈を奪った。
「ここには……いないな」
室内を見回した沢田は、踵を返して部屋を出る。
彼は足を止めることなく別の部屋を探索し始めた。
「上原、待ってろよ……すぐ、助けてやるから……」
この数時間、沢田は助手の上原を捜し続けていた。
爆発炎上する人喰いの縄張りを調べ尽くすも、それらしき遺体は見つからなかった。
したがって上原は別の階へ逃れたと仮定し、立ちはだかる殺人鬼を皆殺しにして進んでいる。
ほぼノンストップの行動により、沢田は極限の疲労に苛まれていた。
僅かにでも油断すれば気絶しそうな状態を、精神力で無理やり意識を繋いでいる。
もはや己が何階にいるかも認識できておらず、本能的な殺戮を繰り返していた。
トラバサミに砕かれた片脚は満足に動かないが、沢田が気にする気配はない。
目的意識に取り憑かれた探偵は、苦痛や疲れをものともしなかった。
やがて沢田は、上階に繋がるロープを発見した。
罠の可能性が脳裏を過ぎるも、彼は豪快によじ登っていく。
着いた先は、白いタイルが敷き詰められた部屋だった。
目に沁みそうな消毒液の臭いを感じつつ、沢田は壁際の机に視線を飛ばす。
丸椅子に腰かけて、レントゲン写真をチェックする白衣姿の女がいた。
沢田は鉈を向けながら近づく。
「おい、動くなよ」
「従う義理はないね」
悠々と振り返ったのは、朽津間クリニックの院長である葛城だった。
レントゲン写真を置いた彼女は、不敵な微笑で沢田を見つめ返す。
「怪我をしているね。私が治療してあげよう。安心したまえ、とびきり元気になることを約束するよ」




