第5話 胡乱な企画
アサバがカトウを後部座席に押し込んだ。
イリエは嫌そうに鼻をつまんで助手席へと移動する。
車を発進させたナベは大げさにぼやいた。
「あー、ブルーシート持ってきてて正解だったぜ。絶対に車を汚すなよ、オッサン」
「ううう……」
カトウは座席の上にブルーシートを敷いて丸まっていた。
車内の揺れで頭をぶつけても意に介さず、低い声で唸り続けている。
ナベは気まぐれに質問をした。
「オッサン、名前は?」
「ああああ……ちがう……それは……」
「ったく、完全にダメじゃねえか。もうカトウでいいや」
ナベは呆れて舌打ちする。
アサバが不思議そうに復唱した。
「カトウ? 名前の由来は?」
「近所のゴミ屋敷のおっさんの名前。なんか雰囲気が似てるから」
「わっはっは、ぴったりだ」
車は狭い獣道を無理やり進んでいく。
行く手を阻む枝葉が車体を引っ掻くも、ナベは一向に気にしない。
揺れの中、メイクを直し終えたイリエが挙手をした。
「ねえ、そろそろ撮り始めない?」
「そうだな。挨拶シーンくらいやっとくか」
ナベは片手でカメラを起動し、小型の三脚でダッシュボードに固定した。
彼は手探りで録画開始ボタンを押す。
その瞬間、ナベは気だるげな表情から打って変わり、爽やかな挨拶を披露した。
「どうも! 三転八倒のナベだ!」
「アサバ!」
「イリエです」
他の二人もテンポよく名乗る。
唯一、ホームレスのカトウはカメラに映らない位置で唸っていた。
その声もマイクでは拾えないほど小さかった。
ナベは作り笑いのまま話を進行する。
「本日は心霊スポット企画! 人喰いビルの探索をしまーす!」
「いえーい!」
アサバとイリエが拍手で盛り上げる。
カトウは辛そうに手で耳を塞いでいた。
「人喰いビルと言えば、オカルト界隈では有名ですね! 一度入ると戻ってこれない呪われた場所だとか!」
「こ、怖い……」
イリエが自身の肩を抱いて震えてみせた。
続けてナベがニヤリと笑う。
「ただし! 最上階には二十五億円の埋蔵金があるって噂なんで、頑張ってゲットしたいと思いまーす!」
「億万長者になるぞー!」
アサバが拳を突き上げて吠えた。
すぐさまナベとイリエが「おー!」と応じる。
カトウが掠れた悲鳴を洩らしたが、それを聞く者はいなかった。