第49話 満身創痍
マナカは血だらけの右手を見る。
親指と小指以外の三本が欠損し、骨と肉が露出していた。
嘆息したマナカは、ハンカチで縛って止血を試みる。
「あーあ、不便だなぁ。マシンガンも落としちゃったし……」
「大丈夫?」
「まあ平気だけどさー」
会話を遮るように銃声が轟く。
扉に散弾が命中するも、貫通して二人に届く兆しはない。
マナカはにんまりと笑う。
「ピンチだねえ。このままじゃ、負けちゃうじゃん」
「どうする? 逃げるなら今だけど」
「もちろん殺すよ」
「いいね」
新たな銃声の直後、弾を装填する音がした。
その瞬間、マナカとヒヨリは扉の陰から飛び出した。
二人は装填中のカトウに躊躇いなく突進する。
「ヒヨリっ!」
「任せて」
ヒヨリがバットで殴りかかった。
頭部を狙う一撃に対し、カトウは片腕を上げて受け止めた。
骨の折れる痛みに彼は顔を顰める。
「ぐっ」
僅かに怯みながらも、カトウはもう一方の手で散弾銃を鈍器のように振るう。
銃床の角がヒヨリのこめかみを強打し、彼女はあえなく昏倒した。
ほぼ同時にマナカがナイフを握って跳びかかる。
「隙ありっ」
突き出したナイフはカトウに腹に刺さった。
目を見開いたカトウは、散弾銃を捨てて怒鳴りつける。
「いってえな、クソガキ!」
カトウはマナカの背後に回り込み、彼女の首を腕で絞めた。
苦しむマナカは抵抗するも、やがて泡を噴いて気絶する。
なんとか勝利をもぎ取ったカトウは、疲労困憊を隠せず大の字になった。
汗だくの顔でカトウはぼやく。
「次から次へと何なんだよ、まったく……」
起き上がったカトウは、マナカのナイフを拾う。
彼は気を失った二人を睨み、とどめを刺そうとする。
しかし、切っ先がマナカの喉に触れる寸前で手を止めた。
(殺す前に情報を吐かせるか。その方が合理的だ)
思い直したカトウは、腹の傷から溢れる血液に気付く。
衣服からズボンを伝って床にまで滴っていた。
その致命的な量に彼は呻く。
「……まずいな」
「お医者さん、紹介しようか?」
「案内するよ」
早くも目覚めた二人が、倒れたままカトウを眺めていた。
カトウは数秒ほど思案した後、頭を掻いて答える。
「ああ、頼む」
「オッケー」
「まいどあり」
マナカとヒヨリは勝ち誇ったように笑った。




