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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第42話 初めての経験

 カトウは床を掻いて呻く。

 彼の太腿に数本の釘が刺さっていた。


「うあああ……」


 立ち上がろうとするカトウのもとに、ネイルガンの改造人間が追いつく。

 にんまりと笑った改造人間は、カトウの頭部に釘を打ち込んだ。

 数度の痙攣を経て、カトウの身体が動かなくなる。


 広がる血だまりを目にしたイリエは呆然とする。


「あっ……」


 立ち止まるイリエの腕を松本が引っ張った。

 彼は凄まじい剣幕で告げる。


「止まるな! あいつは手遅れだ!」


 松本がイリエとナベを抱えて壁の穴に潜り込む。

 その際、イリエは廊下に向けて叫んだ。


「ごめんなさい! 本当にごめんなさいっ!」


 穴の先には狭い空間が上下に広がっていた。

 松本は手頃な足場を引き剥がすと、穴に捩じ込んで侵入を防ぐ。

 廊下側から押し寄せる改造人間が足場を引き抜きにかかるも、引っかかって難儀していた。

 連携どころか互いの邪魔をして争い出している。


 追加の足場で塞いだ後、松本は頭上を見て言う。


「今のうちに十七階に上がる。ここから直行できるはずだ」


「…………」


 イリエは無言だった。

 封鎖された壁の穴を一瞥し、歯を噛み締めて俯く。

 彼女の心情を察した松本は静かに諭す。


「余計な話をする暇はない。死にたくなければ動け」


「はい……すみません……」


「このビルの住人を甘く見るな。自分が生き延びることだけ考えろ」


「もう、嫌だ……医者……医者だ。早く行こうぜ……」


 ナベは血の涙で顔を濡らして喚く。


 その時、三人のそばに数本のロープが垂れ下がってきた。

 イリエはロープの先に注目する。

 改造人間がするすると滑り降りてくるところだった。


 不敵な笑みを湛えた松本は、左右の拳を構える。


「ノンストップで進む。遅れるなよ」


 近くの足場へ跳んだ松本が、剛腕で改造人間を殴り飛ばす。

 頭部が砕け散った死体が遥か下方へ転がり落ちていく。


 その間に別の改造人間がイリエとナベの近くに着地した。

 改造人間は赤熱したブレードを見せつけながらにじり寄ってくる。


 イリエは無我夢中で中華包丁を振り回した。


「こ、来ないで!」


 鋭い動きで繰り出されブレードの切っ先が、イリエの脇腹を掠める。

 皮膚が焦げて肉を焼き切られる痛みに、彼女は大声を上げた。

 そこから渾身の力で中華包丁を叩きつける。


 分厚い刃が改造人間の首を切り裂いた。

 頸動脈を断たれた男は、首を押さえて止血を試みる。


「あっ、あああっ」


 改造人間は膝をついて崩れ落ちる。

 イリエは死体から顔を背け、大急ぎで足場を登り始めた。

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