第41話 改造人間
松本は薄汚れた廊下を進む。
彼は天井の一角を注視すると、おもむろに拳を叩き付けた。
何度か殴ることで、人間が通れるだけの穴を開ける。
その豪快さと手際の良さにイリエは感心する。
「す、すごい……」
「このまま最短距離で十七階まで向かう。遅れるな」
「わかりました、お願いします!」
松本が天井を破壊し、イリエが近くにあった脚立で上がる。
ナベとカトウは松本がまとめて抱えてよじ登った。
同じ要領で上階への移動を続けて、ビルの住人に遭遇することなく進んでいく。
異変が生じたのは、十六階に到達したタイミングだった。
フロア中に反響する奇声が彼らを出迎える。
暗い廊下のその先で、赤や緑のランプが不規則に明滅していた。
松本はランプの光を睨み、拳を固く握り直す。
「……音に釣られて集まってきたな」
「な、何が来るんですか?」
「改造人間だ」
揺れるランプの光が、足音と共に接近してくる。
目を凝らしたイリエは驚愕する。
奇声を上げて駆け寄ってくるのは、肉体の一部が機械化した人間だった。
ある者は、両腕が工具付きの義手になっていた。
その隣を走るのは、胴体に鉄板とモーターが埋め込まれている。
眼球代わりにランプを差し、口から炎を吐く者もいた。
異形の集団を目撃したイリエは、大いに狼狽える。
「サ、サイボーグ!?」
「穴を開ける暇がない。逃げるぞ」
松本が走り出したのを見て、イリエはナベを手を引いて追いかけた。
先頭の改造人間が、右手に装着したネイルガンを発射してくる。
釘が壁や天井に命中し、甲高い音を立てた。
緊迫した状況にナベは慌てふためく。
「おい! 何だよ、説明してくれよっ!」
「いいから走って!」
進路上の扉が砕け散り、胸部にドリルを移植された男が現れた。
高速回転するドリルを見たイリエは後ずさる。
「ひっ!?」
「どけ」
松本がドリル男の首根っこを掴み、そのまま盾のように構えて駆け出した。
彼は前方にいた丸鋸の改造人間と衝突する。
ドリルと丸鋸が互いに突き刺さって血飛沫が上がった。
「あぎぎぎぎぎっ」
「ががっ、がああああはっ」
松本は改造人間を投げ捨てて先へと進む。
突き当たりの壁の高い位置に穴が開いていた。
手前にはスーツケースが積み上げられて即席の階段となっている。
松本は穴を指差して叫ぶ。
「あそこから上がるぞ!」
「は、はいっ!」
イリエが返事をしたその時、背後で誰かが転倒する。
彼女は素早く振り返る。
数メートル後方でカトウがうつ伏せになっていた。




