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朽津間ビル25階3号室  作者: 結城 からく


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第40話 医者

 落下した冷蔵庫がマナカとヒヨリに直撃した。


「あだっ」


「ぶみゃっ」


 二人は為す術もなく潰された。

 さらに衝撃と重みで部屋の床ごと崩れて落下する。


 砂煙が舞い上がる中、イリエは穴を覗き込んで言う。


「私、あいつらに攫われたんです。気絶させられて、ビルの中まで運び込まれて……」


「死なずに済んだのは幸運だったな。あの二人……マナカとヒヨリはビル内でも有名な殺人鬼だ。狙われると逃れるのは難しい」


「で、でも今ので倒せましたもんね」


「いや、おそらく生きている。重傷は負ったろうが、すぐに俺達を追ってくるだろう」


「えっ……」


 イリエは絶句する。

 一方、松本は追加でいくつか家具を投げ落とすと、険しい顔でため息を吐いた。


「あの二人に狙われた状態で一階まで戻るのは難しい。どこかに隠れてやり過ごすか、上の階に逃げることになるが」


「びょ、病院……早く、病院に行かねえと、俺の目が……」


 血涙を流すナベが情けない声で言う。

 しかし、松本は冷淡に応じた。


「我慢しろ。最上階を目指すんじゃなかったのか。この程度のリスクすら覚悟していなかったのか」


「だ、だって……」


「そんなに苦しければ、今すぐ楽にしてやれるが」


 松本がナベの首を無造作に掴む。

 その指に力が込められる寸前、イリエが手を添えて止めた。

 彼女は勇気を振り絞って告げる。


「……やめてください」


「この先、失明した人間は足手まといになる。本人のためにも死なせるべきだ」


「それでも、どうかお願いします……」


 イリエは震える声で懇願する。

 彼女は殴られる予感がして目を閉じた。

 松本は眉間を揉んで考え込み、深々と息を吐き出す。


「十七階に医者がいる。そいつに診てもらえば、目も治るかもしれない。元通りにはならないだろうが……」


「医者!? もうなんでもいい! つ、連れて行ってくれ!」


 ナベが松本に縋り付いた。

 イリエも「お願いします」と言って頭を下げる。

 二人を交互に見た後、松本は部屋の出入り口へと向かう。


「急ぐぞ。ついてこい」


「ありがとうございますっ」


 イリエが礼を言い、ナベの手を引く。


 部屋を出る際、松本は振り返ってカトウに注目する。


 いずれの会話にも参加せず、カトウは髪を掻き毟っていた。

 何を考えているか分からない様子で最後尾にいる。


 松本はじっと目を細め、無言で歩き出した。

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