第39話 狂宴の火花
砂塵が舞う中、イリエはふらついて立ち上がる。
耳鳴りと目まいに苦しむ彼女は、壁に手をついて室内を見回した。
「な、何が……」
爆発によって部屋は半壊していた。
床や壁が焼け焦げて調度品がひっくり返っている。
松本はスーツが少し裂けただけで無事だった。
カトウも爆発の被害はほとんど受けておらず、散弾銃を抱えて唸っている。
部屋の端では、狼狽えるナベが自身の顔に触れていた。
心配になったイリエはその背中に声をかける。
「ナベ、どうしたの?」
「お、おい……どうなってんだ……何も見えねえよ……」
「何も見えないってどういう――」
言いかけたイリエは、ナベの顔を見てぎょっとする。
ナベの顔面に、無数の小さな鉄片が突き刺さっていた。
鉄片の一部が左右の瞼を貫き、彼の視力を奪っているのだった。
「その声……イリエか。目が見えないんだ、助けてくれ!」
「えっ、あっ……」
返答に迷うイリエの手を松本が掴んだ。
彼は拳で天井を破壊すると、イリエを担いでよじ登った。
「逃げるぞ!」
「で、でもまだ二人が……」
「助ける余裕がない!」
二人が言い合う間に、扉の隙間からマシンガンを持った腕が伸びる。
元気な声と共に乱射が始まった。
「こんにちはー!」
室内に数十発の銃弾がばら撒かれた。
銃声に驚いたナベは頭を抱えて丸くなる。
「ひっ、ひえええええっ!」
「ううぅ……」
カトウが苦しげに散弾銃を発砲する。
散弾はマシンガンを持つ手に命中し、血肉が破裂した。
射撃を中断した腕が扉の向こうへと引っ込み、二人分の会話が聞こえてくる。
「あっは! 撃たれちゃった!」
「大丈夫?」
「ヤバいよ! めっちゃ血が出てるって!」
「先に治療する?」
「うん、お願いっ!」
会話を聞いていた松本は、穴から素早く飛び降りた。
彼はナベとカトウを抱えて、天井の穴から上階へと戻る。
ほぼ同時に扉が乱暴に蹴り開かれた。
室内に踏み込んだのは、片手に包帯を巻いたマナカと、バットを握るヒヨリだった。
マシンガンを構えたマナカは、室内を見て首を傾げる。
「あれ? 誰もいないじゃん」
「こっちかも」
ヒヨリが天井の穴を指差した。
二人は揃って穴を見上げる。
そこには冷蔵庫を持ち上げた松本が立っていた。
「くたばれ」
無慈悲に告げた松本は、二人に向かって冷蔵庫を投げつけた。




